再会
また、ここに来た。
あれから、色んな事があった気もするが、実際はあの日だけが色んな事があったのだ。
建物の入口で、社長が待っていてくれた。
彼に会うのも、まあ、1週間振りではあるのだが、それ以上に懐かしい気がした。
ブッチデヨの件もあって、朝っぱらから気持ちは落ち気味だったが、それを悟られても意味は無かったので、挨拶だけは元気にと心がける。
「おはようございます!」
「あ、おはようございます…」
先に挨拶されてしまったせいか、俺は挨拶が元気よく出来なかった。
「おや、元気がないですね、大丈夫ですか?」
「あ、すみません、休んでる間も9時出勤に合わせて起きたりしてたので、30分早くなって微妙にバランスが狂ってるみたいです」
「あっ、なるほど。そういう事なら、ちょっとしんどいですよね」
起床時間の調整なんて全くしていなかったが、嘘も方便だ。
咄嗟に思い付いた嘘としては、なかなか悪くなかった気がする。
「まあ、徐々に慣れていきますよ」
「お願いします」
そんなやり取りをしながら、徐々になんて悠長な余裕がない事を改めて自覚する。
ジョージに教えてもらった2つのキーワードを足掛かりにして、今週中に目処をつけるのだ。
名札を取り、社長と共にロッカーへと向かう。
何やら、今日は社長も一緒に働いてくれる、との事らしい。
正直、始終、行動を共にしなければならないとしたら、今日を全て無駄にしてしまう事になるし、勘弁して欲しいものだ。
そんな事を考えながら、ロッカーに入ると、いきなり声が掛かった。
「おはようございます!」
「おはようございます」
社長が応じる横で、俺は軽く頭を下げた。
例の情報屋、カズトだ。
社長は違う名前、そう、名札通りに呼ぶが、俺にとってはカズト以外の何者でもない。
「この人が今日からこっちに入る青岸君ですか?」
「おや、もう知ってましたか?」
「ええ、先週の月曜に少し話しました。ねぇ、青岸君?」
「はい、少しだけ。ここの事とか、教えてもらいました」
「新人に話しかけるのが趣味なんですよ」
カズトはそういうキャラ作りをしているのだろう。
なるほど、情報屋なんて商売には相応しい趣味と言えた。
コートや荷物をロッカーに突っ込んでいく。
勿論、スマホはポケットに忍ばせたままだ。
社長はともかく、カズトには気付かれているだろう。
だが、流石に俺を商売相手と考えているのか、そこには全く言及してこない。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
カズトを先頭に、社長、俺と続く。
前座は終わり、ここからが本番だ、気を引き締め直す。