俺は正しいに決まってる
ジョージが去った後、残されたのは俺と信長だけだった。
「さて、こいつをどうするか…」
さっき、俺を見事に裏切ってくれたわけではあるが、俺も信長を裏切ろうとしていたわけで、先を越されただけと言えなくもない。
「おい、大丈夫か?」
爪先で突っついてみる。
呻き声と共に、こちらを見上げてくる。
「…裏切り者が」
先を越して裏切った奴が、何故か、こちらを裏切り者呼ばわりしてくる。
割と不快だった。
「裏切ったのはお前だろ?黒い壁の中で俺が何を思って、今、俺が何を考えてると思う?」
信長は答えない。
もしかしたら、彼は意識が混濁しているのかもしれない。
そうでなければ、こんな勘違いをするわけがない。
「組織を裏切った奴が、偉そうに…」
意味が分からない。
俺ほど、組織に忠誠を誓い、組織の犠牲になっている奴も珍しいはずだ。
難癖にしても酷すぎるので、俺は信長を足で突っついてみる、強めに。
まあ、組織にさっさと連絡して、回収してもらった方が良いだろう。
「今から、組織に連絡してやる。俺への感謝を忘れるなよ」
「誰が感謝なんてするか、この裏切り者が…」
「さっきから、いったい何なんだよ!俺がいつ、どんな形で組織を裏切ったか、言ってみろよ!」
「ジョージに『最強』の情報を売って、組織を危機に陥れた裏切り者に感謝なんて出来ないね」
そういう捉え方もあったか、と俺は驚きを隠せなかった。
「さあ、組織に早く連絡してくれ。裏切り者と同じ空気を吸い続けるのは不快で仕方がない。元気になった暁には、君の裏切りを組織に訴えてやる」
自然と、俺の足は信長の側頭部を思い切り蹴飛ばしていた。
「な、何…、な、…何で」
「ああ、村田に感謝しないとな。お前が普通に動ける状態だったら、面倒だっただろうな…」
「こ、こんな事をして、裏切り者は裏切り者だな…」
「困ったな…、お前が生き残ってたら、俺は組織から罰を受けるわけだ」
転がっていた瓦礫を手に取り、しゃがみ込んで信長の顔をジッと見る。
俺は自分では安心感を与える素敵な笑顔を浮かべているつもりだったのに、信長が怯えていたのは何故だろうか。
右手を天高く振り上げる。
「ま、待ってくれ、…下さい、話し合って、…あの、そ、その…、裏切り者って報告はするけど、えっと…」
右手を勢いよく振り下ろす。
耳に入るのは、潰れる音も、悲鳴も、ただの雑音でしかなかった。
瓦礫が砕けてしまうまで、俺の右手は何度でも上下した。
心は全く痛くないのに、右手はかなり痛かった。
だから、左手で、慣れない下手くそな操作で、スマホを操る。
「俺だ。ジョージの介入によって、全ての裏切り者達は死んだ。こちらの戦力も、俺以外は全滅だ。以上、報告は終わりだ」
耳に詳細を問う声が響いていた。
だが、報告は終わっていたのだから、俺はスマホの電源を切った。
そして、唐突に思い出す。
「あ、王子は生存してたな」
まあ、知った事では無かったが…。