俺は正しい
ジョージの両拳が機能しなくなった時、勝者は村田だと早合点してしまった。
だから、俺は結果的にジョージが勝ってしまった時、見事に動揺が隠せなかった。
そうして、そんな俺なんかがジョージと戦えるなんてわけもなく、彼の動向を見守る事しか出来なかった。
「よぉ、結果的にだが、命拾いした気分はどうだ?」
「命拾い…?俺や信長を殺さないって、そんな感じなのか?」
「興味ねぇよ。お前らだって大人になってから、道端の蟻を踏み潰すのに夢中になったりしねぇだろ?」
信長は蟻だとして、俺は何なんだろうか。
「…狼くらいか」
「狼って、何の話だ?」
「いや、こっちの話だ」
「じゃあ、俺は行くわ。『最強』とは完全な状態で殺り合いたいからな」
「ああ、…そうだ、そういえば、今、俺は例の現場に入ってるんだ、知ってるか?」
「ああ。情報提供の要請が壊れてた頃の俺にすらもあったからな」
「それで、その、えっと、情報とか、無いかな?」
「あぁ?命が助かったら、急に対等ぶって話す気かよ?」
「いや、そういうわけじゃなくて、ジョージも組織から離れるって事は、『最強』の居所を掴むのは難しくなるだろ?こっちからは、それを提供できる」
「へぇ…。お前に『最強』を売る覚悟があンのかよ?」
「別に、俺はアイツの事がそんなに好きじゃないしな」
ジョージはそっぽを向く、表情は読めない。
「とりあえずだ、子供達と灰色には用心しろ。俺が言ってやれンのは、こンくらいだ。だけど、お前の『ビルメン』なら、或いは…」
意味が、まるで分からなかった。
だが、ジョージに説明を求めても素直に答えてくれるわけが無いし、『ビルメン』によって何とか出来る可能性があると提示された以上、俺自身が何とかしてみるしかないのだろう。
「じゃあ、こっちからだ。『最強』は来月にはあの現場に帰ってくると言っていた」
ジョージがこちらを見やる。
笑っていた、が、本心は違う気もした。
「さっき、ビビってそれを言わなかったのは、スゲェじゃん?俺と本気で交渉しやがったのかよ、お前が」
俺は何も言わない、知っていたから。
ジョージは歩き出した。
その背中を見ながら、さっき、何かを言っていたら、きっと殺されていただろうなと、思うのだ。