成長と停滞
「色々と邪魔は入ったが、結局、2人で決着をつけるしかないわけだな」
「俺は別にアンタじゃなくても良かった。もう、今日だけで何人くらい殺したか覚えちゃねぇよ」
「前座と本番を一緒くたにしない方が良い。それとも、負けた時の言い訳が欲しいか」
ジョージが肩を竦め、握った右拳を村田に向かって伸ばす。
それに応じるように、村田の全身が血のような赤に染まっていく。
「行くぞ…」
「…来い」
ジョージが駆け出し、一気に距離を詰める。
さっきまでは、村田の攻撃に対して避けるだけだった彼が随分と積極的になっている。
或いは、連戦に次ぐ連戦で、流石のジョージも疲れ、短期決戦を望んでいるのだろうか。
「血走れ…」
「うるせぇよ、黙れ!」
ジョージの『破天荒快男児』を村田は無謀にも左手だけで受け止め、その代償として左肘から下が弾け飛んだ。
だが、その瞬間、村田の弾け飛んだ部分を彩っていた赤がジョージの右腕に纏わり付き、一気に全身へと駆け巡ろうとする。
「知るかよ!」
赤くなった右手を振りかざして『破天荒快男児』を放とうとするが、その方向は何故か明後日に飛び、足元を吹っ飛ばしてしまう。
それと同時に、全身へと駆け巡ろうとしていた赤の大半が飛散してしまう。
「糞が…、何なんだよ」
ジョージが右拳をダラリと垂れ下がらせ、それは握り込めずにカタカタと震えている。
「化物が…。左腕を完全に犠牲にしてやったのに、止められたのは右だけか」
「ウゼェ…」
ジョージは躊躇なく、左拳を放つ。
そして、村田は若干の躊躇と共に、右手を出した。
結果は同じだった。
両腕の肘から下を失った村田は、だが、血を扱うような特異性の為か、血は一滴も垂れていない。
しかし、流石に顔は真っ青になっており、余裕はまるで感じられない。
対して、ジョージも両拳をダラリと垂れ下がらせ、呼吸も荒くなっている。
「両腕を犠牲にさせやがって…、この悪魔が」
「こっちも、暫くは拳を使えそうに無いな。ま、時間経過で回復しそうな俺と、一生をふいにしたアンタとじゃ、元々の実力が違いすぎるってこったな」
「最終的に勝ってしまう方と、惨めに負けて転がる方なら、実力の有無は…。どっちにしろ、これで終わりだ。『破天荒快男児』は両拳から放たれる。つまり、それを失ったお前は、一般人と大差ない」
「あぁん?何の話をしてやがるんだ、アンタぁ」
「最後の最後まで、その不遜さは保ちたいか…。良いだろう、認めよう。血戦最終形、赤き灼光!」
村田の全身を彩っていた赤が全て消えた。
そして、口を大きく開けた彼の喉奥に赤い一点の光が見えた。
次の瞬間、赤い光線が村田の口から発射された。
軽く頷いたように見えたジョージの額で、赤い光線は見事に四散してしまう。
「は?」
「何かよぉ、勘違いさせちまって悪かったけどよぉ、俺の『破天荒快男児』は全身のどっからでも放てるんだわ」
「な、だって、お前とかつて戦った時、お前は両拳だけで『破天荒快男児』を使って、それだけで…」
「アンタと俺が戦ったのって、俺が特異性を発現させたばっかの頃だろ?そっから、俺がまるで成長してないと思ったのか?それとも、成長してないのはあン時、俺を精神的にも完璧に屈服させなかったアンタの甘さの方か?」
村田は視線を彷徨わせる、どこか、誰にも見えない何かを探すように、虚ろに、空ろに、呆然と、茫然と。
「肉体より、精神が先に終わっちまったか…」
蹴る、村田の胸部を。
勿論、それも『破天荒快男児』だ。