動くべき時
髪、眼、皮膚が赤く、血のような赤に染まっていく。
村田の変化に対し、俺は流石に仁右衛門やスサノオとは違うな、と思った。
さて、実力の方は近江に近いか、或いはシャリをすらも凌ぐか。
それでも、正気に戻ってしまったジョージとは比べ物にならないだろうというのが、俺の考えだった。
「何か、異形の化物でも現れたかのような不気味さがあるね」
「何も変わらなくても、ジョージだって化物さ」
「君は随分とジョージの肩を持つね」
「お前は随分とジョージを貶めるけどな」
村田が親指を弾くと、ビー玉大の血が飛ぶ。
それに対し、ジョージはいつもと違い、軽く身を反らして避ける。
「何故、『破天荒快男児』を使わなかった?それに…」
「それに?」
「おい、信長、手伝え。この戦いに介入して、俺達がジョージを殺すぞ」
「いやいや、何を言っているのか、君は分かっているのか?一対一の戦いに介入するなんて、そんな事はするべきじゃないよ」
「綺麗事を言うな。お前だって、ここに見物目的で来たわけじゃないだろ。手柄が欲しくないのか?」
「しかしな…」
「考えてもみろ。俺の予想ではジョージが勝つ。そしたら、次はチャイの戦いを見物するのか?逆にお前の予想が当たったとしたら、ジョージは死んで俺達は無駄足だ」
僅かな逡巡の後、信長が大きく頷いた。
「分かった、殺ろう」
「じゃあ、作戦を説明する。まず、お前の『ストーリーテラー』でチャイを戦いに参戦させろ」
「は?チャイを参戦させるって、意味があるのか?」
「混乱を生じさせるんだ。さっきまでのお前だってそうだが、今、あの3人で二対一を演じる羽目になるなんて、誰も考えちゃいない。でも、もしも、実際にそうなったとしたら、どうだ?あの2人は共闘すると思うか?ジョージは余裕を保っていられるか?何にせよ、戦いがそのまま続行なんて事はありえない」
「でも、混乱するだろうけど、それを制御した上で利用できるとは思えない。『ストーリーテラー』は、そこまで万能じゃない」
「利用はするが、制御はしない。さっきも言ったが、目的は混乱を生じさせる事にある」
「混乱を利用するだけか…。続きを聞かせて欲しい」
「そこで、もう一度、『ストーリーテラー』の出番さ。この場所をちょっとした迷宮にでも変化させ、村田だけを離れた場所に配置する」
「それだと、ジョージとチャイが一対一になるだけじゃないのか?」
「いや、奴らは混乱しているんだ。すぐに気持ちを切り替えて、一対一って風にはならないさ」
「どうなる?」
「ジョージはチャイを殺そうとするだろう。再び、二対一の状態になられては困るからな。チャイの方はとにかく、村田を探そうとするはずだ。ジョージという獲物を横取りしたと思われたくないだろうしな」
「なるほど。ジョージの考えは分かる、チャイもそうだ。年上の村田から手柄を奪うなんて、これからも同じ組織でやっていくには気不味い事になるだろうからね」
「理解が早くて助かる。そして、ここからは俺の役目となるわけだが、詳しくは言わない事にしようか。後のお楽しみって事で、果報は寝て待っていてくれ」
「分かった、祝杯を上げる時にでも顛末は聞かせてもらおう」
「じゃあ、始めるとするか。頼りにしてるぜ、相棒!」
満面の笑みを浮かべる信長に対し、俺は心の中で舌を出す。
せいぜい、俺の為に働き、俺に利用されるだけ利用されて欲しいと、切に願いながら。