鬼のように速く
「おかしくないか?」
俺の問い掛けに対し、おかしいのはお前の頭だと言わんばかりの信長に苛立ちを覚える。
しかし、それよりも、ジョージが気になった。
いや、正確には彼の足許が気になったのだ。
あれだけ、『破天荒快男児』で乱打しているにも関わらず、ほとんど変化が無いのだ。
嫌な予感がして、俺は『ビルメン』でジョージの周囲、その足許を見やる。
その瞬間、嫌な予感が当たっていて、俺は咄嗟に背中を翻して、ジョージから離れるように駆け出した。
何事か分からず、それでも雰囲気を察したのか、信長が追い縋ってくる。
「何があったと言うのだ?」
「アイツ、何で下を殴りまくってると思う?」
「悔しいからだろう、負け惜しみさ」
「違う!アイツは諦めてなんていやしない。あんだけ殴りまくってやがるのに、見た目に変化は無い。『ビルメン』で確認したら、地中を壊しまくってやがった」
「それは、どういう…?」
「この一帯を崩落させる気なんだよ!」
「間に合うのか?」
逃げるのが、という意味だろうか。
「お前の『ストーリーテラー』で崩落を食い止められるか?」
「…無理だ。これは、僕の想像力を超えすぎている」
その時、口笛の音が聞こえた。
そんな音が聞こえるという事は、ジョージの乱打が終わったという事だ。
「始まるぞ!」
「仕方がないから、助けるよ。僕に掴まるんだ」
申し出は有難かったし、すぐに応じたわけだが、汗臭さが尋常ではなく、吐きそうになった。
まあ、それでも、死んでしまったり、大怪我をするよりはマシで、実際、辺り一帯が見事に崩れてしまった中、信長と彼に掴まった自分が助かったのは、奇跡の領域だと感じた。
「僕の『ストーリーテラー』は凄いと思わないか?」
「ちょっとした奇跡だな」
「君が奇跡と思った事すら、『ストーリーテラー』で仕組んだ事だよ。奇跡的に救われ、その奇跡に感謝するというストーリー仕立てさ」
「そうか、それは凄い」
いささか棒読み気味に言いつつ、現状を確認する。
ジョージは勿論、生存。
細かな傷は数多いが、その狂暴性は欠片も損なわれていない。
シャリも生存してはいるが、こちらはジョージほどの余裕は無く、形勢は完全に逆転してしまっている。
特に酷いのは左腕で、血塗れであり、もはや、この戦いの間は使い物になりそうにもない。
三超将軍はどうやったのか、全員がほぼ無傷で生存していて、ジョージとシャリの戦いを見守る姿勢を崩していない。
王子が逃げおおせてしまった以上、完璧には程遠いが、兎にも角にも、裏切り者達はこの場においては全滅してしまうだろうか。
「予想外だ、それは認める。だが、まだ負けたわけじゃない」
シャリが笑う、と同時、ジョージが視線を三超将軍に向けた。
「もう、用済みってわけか。…舐めてんじゃねぇぞ、ジョージ!」
消える、と同時、無造作に振った拳にぶつかり、首の半分くらいが抉り飛ばされたシャリが理解できず、崩れ落ちた。