真実
「出せ出セ出せよオ!」
ジョージが大暴れしたせいで、俺の『ビルメン』はすっかり意味を成さなくなってしまっていた。
まあ、簡単に言えば、潰れたデパートは物理的にも完全に潰れてしまっていた。
組織の誰かが何らかの特異性でカモフラージュを施しているのだろうか、周囲は未だに静かなものだ。
だからこそ、俺達は俺達で事態を収める必要があった。
「でもなぁ、俺はもう無力だしなぁ…」
「そうだね、無力な君は見物人でもやっていたら良いよ」
ジョージの『破天荒快男児』で全てを覆されてしまった感のある信長が、割と偉そうに踏ん反り返っていた。
「お前の『ストーリーテラー』も駄目だったじゃねぇか」
「勘違いしないで欲しいな。僕の『ストーリーテラー』は、彼に狙いを定めていなかっただけだよ。照準を合わせれば、不可能では無いね」
どうしてだろうか、組織のランク2位であるはずのジョージは1位の『最強』に比べると、割と見くびられる傾向にある。
「じゃあ、お前が止めてみせてくれよ」
「止める?彼を?何で?」
「いや、不可能じゃないって言っただろ、さっき」
「止める必要なんて無い。殺してしまって構わないと思うけどね」
「組織のランク2位を殺すって、そんな馬鹿げた事…」
組織内で殺し合う事、信長如きがジョージを殺せるような主張に対して、その2つを同時に指摘してやったつもりだった。
「ジョージは『最強』と比べれば、殺せるレベルの相手だよ。組織は1位だけが飛び抜けていて、2位以下は団子状態さ。そして、今日、2位が沈む」
「だから、組織内で殺し合うなんて許される事じゃないだろうが!」
「暴走してる奴を止める。さっき、君はそう言ったじゃないか?でも、身を挺して止めるなんてリスキーな事、誰がやりたい?でも、このまま放置してたら、ジョージはこの閉ざされた空間を飛び出して、外で一般人を巻き込んで大暴れするよね。そうなったら、大問題だよ」
俺もこの時点で、ようやく理解できた。
組織の為に殺す、その名目を得たわけだ。
「ああ、そうか、そうだったね。君の『ビルメン』は今、役立たずと化してるんだ。それで、蚊帳の外にいてしまって気付かないわけだ。この状況を作り出した奴の正体、思惑なんて簡単じゃないか」
どうやら、まだ、俺は全てを理解しているわけでは無いようだ。
「これを企んだのは、王子だよ。執拗に命を狙ってくるジョージを殺してしまいたいってわけだ。組織のメンバーにはランク2位のジョージを殺せたという実力の証明を、裏切り者達にはランク2位のジョージを殺したという意味合いでの名を挙げるチャンスを、それぞれ用意した形だね」
俺は信長という男を過小評価してしまっていたのかもしれない。
その分析力には舌を巻かざるを得なかったから。