破天荒快男児
「敵の居場所を教えて欲しい。僕のストーリーが始められなくては君も困る事になるよ」
信長の特異性、『ストーリーテラー』は自分を主人公にした英雄譚を現実にするというなかなか壮大な代物で、現状に対する情報が多ければ多いほど、その強制力が増すのだ。
俺の『ビルメン』との相性もかなり良いだろうという事で何度か組まされた事があるのだが、如何せん、信長の想像力があまりに貧困であり、宝の持ち腐れというか、結局、ショボい特異性に落ち着いてしまっている。
「奥のトイレ、女子トイレに仁右衛門がいるぞ。マフラーを使ってくるから、用心しろよ」
「分かった、戦果に期待してくれても良いよ」
「ああ、頑張れ」
俺は嘘を平気で吐く。
確かに、仁右衛門は女子トイレにいたし、男子トイレと迷った挙句に女子トイレを選んだ姿は滑稽で笑えたが、信長のいる地下の女子トイレではなく、5階にいるのだ。
それに、奥のトイレと言ったのに、信長が恐る恐るといった感じで近付いて行くのは、手前のトイレなのだから目も当てられない無能さだった。
だが、ここで奇妙な事が起こった。
5階奥の女子トイレにいたはずの仁右衛門が、いつの間にか、信長の近付いて行く手前の、しかも、男子トイレに移動させられていたのだ。
恐らくはこちらに向かい、親指を突き立てた信長は勝ち誇ったような顔だった。
相変わらず、汗臭そうだ。
「これが、『ストーリーテラー』の本質か…」
呟いた瞬間、異変が起きた。
三超将軍の面々、それに、王子とシャリが弾かれたように視線を上に向けた。
彼らがいる場所はそれぞれ近くはなくて、だから、彼らが意識した場所がこの建物の中ではなく、外、しかも、『ビルメン』で把握できていない上空である事は容易に理解させられた。
「何か、…何が、来る?」
「こぉんの蛇野郎がァァァアァアァァァ!」
叫び声、同時に衝撃が襲い、『ビルメン』が働く。
「…『破天荒快男児』ジョージか!」
デパートの構造が一気に変化する。
より具体的には、半壊しつつある。
たったの一撃、しかし、それは、無敵無双無限無類の超絶なる拳。
組織で『最強』に次ぐランク2位、『破天荒快男児』という特異性を持つジョージが、厳然と降臨していた。