組織の根幹
敵が2人に増え、謎が2人も増えた。
「組織の元メンバー、シャリの情報を頼む」
「名前はシャリ、特異性は『鬼速』、ランクは貴方よりも上でした」
「またか、いい加減にしろよ。名前は俺が言ったし、ランクなんて興味がない。特異性についてだけ、それだけを答えろ」
「それならば、そう言って下さい。ちなみに、私も貴方よりもランクが上です」
自分のランクが存外、低いんだと理解させられた。
だが、俺にも相手を驚かせられる術があるのだ。
「王子とシャリ、この裏切り者達が揃ってる」
「では、組織のメンバーとして、裏切り者の処分をお願いします」
「そうだな、組織のメンバーとして、裏切り者の処分は義務だ。だけど、その裏切り者達と組織のメンバーが和やかに談笑してるとしたら、どうする?」
電話の向こうで、相手が息を飲む音が聞こえたような気がするのは間違いではないだろう。
「裏切り者2名、組織のメンバー2名だ。しかも、俺が送られた現場に全員が行っていたという曰く付きだ」
「…あの場所はどれほどに、組織に因縁を植え付ければ気が済むのか」
敢えて、最強の思惑には触れなかった。
トラウマになりかねないほど、あの現場が嫌な記憶となってしまっているならば、仮に最強が自信満々に解決できるなんて言っていたと知ったら、全てを彼に委ねてしまって、悪い夢から一刻も早く目覚めたいと思ってしまう可能性がかなりの割合であるだろうから。
それに今のままならば、最強は現場を上手く管理できなかった無能であると判断されるかもしれない。
そうすれば、最強が戻りたいと組織に言ったとしても、ただの我儘であると判断される可能性もある。
「新たな裏切り者達の情報を求めます」
「マフラー野郎と雑音の奴だ」
「名前は仁右衛門、特異性は『マフラー』ですか?」
「ああ、そんな珍しい名前だったな。もう1人の奴は、特異性が『雑音』だ」
「スサノオですね」
また、大層な名前だ。
「王子、シャリ、仁右衛門、スサノオか…」
「支援員を派遣しましょうか?」
「ああ、頼む。流石に俺だけでは、4名は始末できないからな」
「では、『ストーリーテラー』の特異性を持つ信長を派遣します」
「そんな使えない奴は遠慮しておきたいんだが…」
ハゲ、デブ、汗臭いという欠点は我慢してやるとして、それを補う美点がまるで見出だせない上に、無駄にプライドが高くて上から目線という褒める要素が何一つとして無い稀有な存在が、信長という男なのだ。
それでも、組織が彼を選ぶ理由は容易に想像できた。
それは、信長も昨年末まで例の現場に送られたメンバーの1人だったからだ。
組織の、ではなく、現場の通常業務が辛いという理由で辞めてしまい、戻され、現場側から仕事が出来ない等々、様々な理由でクビになり続け、何も調べる事が出来ずに終わったのだが、そんな奴ですらも裏切り者である可能性が疑われ、今回の件を踏み絵にしようという腹なのだろう。
正直、信長が裏切り者だろうと、無かろうと、俺にはどっちでも構わない。
ただ、裏切り者だったとしても障害物になるし、裏切っていなくても足を引っ張るだけという奴なんて最悪だ。
「察しが良い貴方は分かっているかもしれませんが、これは裏切り者を見極める意味合いを持ちます。だから、『ストーリーテラー』信長だけではなく、三超将軍にもお願いするつもりです」
三超将軍という存在は、組織内にてのみで意味を持つ名称だった。
組織外で、勿論、組織の裏切り者は除くが、知っている者がいたとしたら、俺は驚いてしまうだろう。
そう、三超将軍は組織の仕事の全てに関わっていて、その最初の道筋をつける役割を負っている。
つまり、最初に現場へと入り、そこを攻略する方向性を決めているわけで、もしも、彼らが裏切っているのだとしたら、それは組織というシステム自体が瓦解してしまう事を意味するわけだ。
「つまり、俺が今、関わっている現場に入った事がある奴ら全て、集結するって事だな?」
「いえ、流石にそれは…。『最強』は行きませんし、他にも、あの彼も…」
「ああ、そうだったな…」
俺からすれば、『最強』はすでに含まれていたわけだが、そこは伝えてなかったわけだし、分からいでもない。
そして、もう1人の彼も。
それについて、思考しようとした矢先、『ビルメン』で見ていた景色に変化が起きる。
変化といっても、超常的な事ではなく、もっと単純で、愚かな事だ。
王子が笑って、何かが書かれたメモを顔の前でヒラヒラと揺らす。
「見てるよな、馬鹿野郎?俺達は今から、本拠地に戻る。そこまで来たなら、相手してやるよ。お前も、組織も、全てな」
「えっ…?」
「奴らからのメッセージさ。こっちを挑発してきやがった。とにかく、すぐに三超将軍を寄越してくれ。狩りを始めよう」
裏切り者達が動き出す。
走る事もなく、喋ったまま歩きながら、こちらを誘うように。
俺も焦る事なく、歩調を合わせるように、ゆっくりと、歩く。