カズトと谷川と子供達と…
「俺はこの扉を開けて、未来からやって来たんだ」
隠していても仕方が無いので、俺は谷川や子供達に全てを明かしてしまう事にした。
「どこまでも異常な奴だとは思っていたが、同じ時代の人間ですらないとはな」
まるで疑う様子も見せず、谷川が苦笑混じりに呟く。
「おいおい、俺が嘘を吐いてるとかって、思ったりしないのかよ?」
「今さら、貴様がそんな嘘を言ったとして、どんな得があるというのだ?下らない事を疑うのは止せ」
「時雨はどうだ?」
「疑いません。例え、青騎士じゃなかったとしても、貴方は僕達を救ってくれたんですから」
また、青岸だ。
俺が青岸なんて下衆な俗物じゃないのは当たり前だが、それにしてもこの拘りは何なのだろうか。
「なあ、一応、聞きたいんだけど、仮にその青岸ってのが現れたとしたら、お前達は俺を裏切るつもりか?」
子供達の中でざわめきが起こり、各所で話し合いが始まってしまう。
「子供達の裏切りを心配するとは、貴様も随分と臆病な性格をしておるな、カズトよ」
「いや、俺だけなら正直、裏切られたとしても対処は出来るんだが、谷川の事が心配だからな」
「貴様、調子に乗るなよ。あの程度の人数、片手で捻り潰してやる」
そんなやり取りをしている間に、子供達の間で意見がまとまったようだった。
「青騎士の事は、ただの童話だから…。アタシ達は、絶対に裏切らないよ」
「そうか、そりゃ良かった。お前達と殺し合いってのも、別段、楽しくはないだろうからな」
正直、子供達を殺し飽きていたわけだが、それも包み隠さずに告げた。
そう、未来では青岸がいて、子供達は彼に従っていたと。
「その上で問いたい。未来では、青岸が存在する事は確定している。それでも、裏切らないか?」
ここまで、俺が青岸の存在を意識した事は、人生で一度もなかっただろう。
ただ、子供達にとってはどうやら特別な存在らしいし、意味はまるで分からなかったが、今までは青岸の童話だけが心の拠り所だったようだから、聞かずに置ける問題ではなかった。
今度は、谷川も皮肉を言わず、子供達の結論を待っていた。
銃を持った右手に、若干、力が込められたように感じたが、仮に争う事になったとしても、俺は谷川と一緒に子供達から逃げ回る生活も悪くないと、そんな風に感じてもいた。
「そんな未来があったとしても、僕達はカズトさんと一緒にいます。そして、カズトさんが青騎士と戦うのだとしたら、僕達もそれを手伝います」
「分かった。ありがとう、助かるよ」
それから、今度は主に谷川に向けて、説明を始めた。
この灰色に染まってしまった場所の事、俺の仮説を。
「つまり、貴様達と一緒に未来永劫、ずっと、この灰色の中で暮らさなければならないという事か…」
子供達を見て分かった事として、この灰色の中では年を取らないという事。
「いや、まあ、日中は外に出ておいて、睡眠時にこの灰色の中に戻るという生活も出来るとは思うが、要するに慣れなんだろうな」
「そして、外で殺されたり、死んだりしたとしても、この中で復活するというわけだな。どちらにしても、年を取らないという一点において、外では異端視されて迫害を受ける事になる」
「悪かったな、巻き込んじまって」
谷川が長く深い溜息を吐き出した。
「そんなに大層な人生を送っていたわけでもない。こういう流れになったのも、悪くはないだろう。貴様と一緒に子供達と暮らすのも、悪くはない」
「そうだな。俺も未来に戻れなかったとしても、悪くはない」
まあ、いずれは山田や襟櫛とも再会する事になるのだろう。
その時、どんな感じで彼らに声を掛け、言葉を交わすか、それを想像して過ごすのも悪くない。
勿論、谷川や子供達と楽しく暮らすのは、最高な気分だろう…。