山田の譲れない思い
「これ以上の調査は不要だ、ここから失せろ」
真南の言葉は厳しさだけで、優しさの欠片もない。
こうなってしまう事は、彼を仲間に入れた時から分かっていた気がする。
ただ、自分が目を背けていただけだ。
自然と、九を見てしまう。
彼は首を横に振り、反対の意思を示した。
だが、自分は簡単には引き下がれない。
ここから立ち去り、楽隠居でも決め込んでしまえば良い九とは違い、自分にとってここにはまだ仲間が生存している可能性がある。
「嫌ですねぇ。京通の調査が、目的なんですよ。邪魔するなら…」
「何だ?」
しゃがれた声が響き、鉄柱の先が眼前を覆った。
番井が真南と歩調を合わせる事など、最初から分かっていた。
計算上では、自分にも等々力という味方がいるはずだったのだが、そこはもう、計算違いになってしまっている。
「雑魚は引っ込んでいろ、って事ですよねぇ」
鉄柱をそのまま突っ込んで来て、そのまま、番井は吹っ飛んだ。
「そんなに、『道式論』を見くびらないで欲しいものですねぇ」
「山田君、今なら引き返せるぞ」
「すでに、遅いわ!」
「そうですねぇ、遅すぎますねぇ、貴方の動きは実に遅いですよ」
吹っ飛んだ番井の鉄柱を投げようとして、だが、遅くなった動きではそれもままならない。
「…山田君、止まるんだ」
「すみません、九さん。この建物で、貴方には5本の指に入るくらいの好感を抱いていましたよ。ただ、今、重要なのは、カズト氏と襟櫛なんで、3番手以下はお呼びじゃないんですよ」
「…星の煌き」
「星は夜空で輝くものですねぇ」
九の親指から弾かれた光弾は、山田の眉間を打たずに空の彼方へと飛んで行く。
道化王との戦いにおいて、九の戦い方はじっくりと観察させてもらった。
だから、彼が最初、こちらの不意を突くように、光弾で眉間を弾く事は分かっていた。
そして、分かっていたならば、『道式論』に防げない道理はない。
「他の2人はともかく、九さんを殺すのは忍びないですねぇ」
「簡単に殺せると思うな」
3人が3人とも、同じ台詞を吐いた。
それが、少し寂しかった。
「邪魔者はこの場所に立入禁止なんですけどねぇ」
九、真南、番井の3人が、同時に敷地外へと吹っ飛んだ。
彼らは何とかして、ここに戻ろうとしているようだったが、それは不可能だ。
灰色に染まった京通を見て、それに近付いて、ちょうど、建物の上部に位置する場所にまで歩いて行った。
外で、3人が何やら喚いている。
制止するつもりらしかったが、制止されるつもりはなかった。
「確か、あの時、上部を開いた京通を、あの道化王は嫌がっていたから…」
確信に触れようとしている事を自覚しながら、そこに手を伸ばしていく…。