青騎士じゃない青岸
俺は混乱に満たされていた。
突如として、理由は全く分からないが、俺の中から『ビルメン』が消えてしまったのだ。
堂々と宣言をした俺を無視して、襟櫛とジョージが2人だけで戦い始める。
「襟櫛、ジョージ、俺の異変に気付けよ…」
そう呟きながら、だが、実は気付かないで欲しいと思っていた。
青騎士は所詮、『ビルメン』を基点とした、もう1つの特異性だ。
だから、『ビルメン』が消えてしまった今となっては、俺はこの青い甲冑を持て余していた。
残念な話だが、俺は動けないのだ。
この甲冑が重すぎて動けない、身動きが取れない。
兜の隙間から、俺は襟櫛とジョージを見ていた。
いや、正確には見ようとしていただけだ。
襟櫛は勿論、ジョージですらも速すぎて、とても視認できない。
不意に、ジョージの動きが止まる。
同時に、襟櫛も止まった。
その時、俺は気付いた。
ジョージは負ける、惨敗する。
襟櫛は気付いているだろうか、いや、気付いていないはずだ。
その証拠に、ジョージが身を守る為に縮こまった姿を見て、焦ったように再度、攻撃を始めたから。
やがて、決着は早かった。
ジョージの首が撥ね飛ばされ、終わった。
「なあ、こんな結末、お前は予期していたかよ?」
それは、襟櫛から俺への問い掛けだ。
もう、挑発ですらもなく、見下されているのは分かっている。
だが、俺は答えられない。
今、下手に奴を刺激すれば、一撃で殺されてしまう。
そんな無様なのは嫌だった。
しかし、『ビルメン』は戻らない、青騎士が邪魔をして動けない。
「俺を殺すつもりか?」
意外な事を聞かれたとでも思ったのか、襟櫛は首を傾げた。
それでも、彼は少し苦笑して答える。
「勿論、そのつもりだ」
「殺さないでくれ…」
「今さら、命乞いか?」
「俺は今、戦えないんだ…」
同情を買って、そうやってでも、俺は逃げる必要があった。
斬撃が、俺を襲う。
優秀な青騎士は、その甲冑は揺るがない。
ただ、衝撃は俺に伝わり、崩れ落ちそうになったのに、青騎士は微動だにしない。
「元々、お前は俺と戦えてなんかいないさ。俺が攻撃して、お前が受け止める。それだけだっただろ?」
「分からない奴だな、この馬鹿が!今、俺は特異性を失った一般人なんだよ!襟櫛、お前は一般人を嬲り殺すつもりだってのか?」
切っ先で、兜が撥ね上げられた。
俺と、襟櫛の視線が合う。
愛想笑いを浮かべたが、襟櫛は笑わない。
こちらを睨んでいて、その瞳には怒りが灯っていた。
「ど、どうする…?一般人になった俺でも、殺すかよ?」
「逃してもらえるとでも、期待したか?」
「卑怯者が!一般人を殺すなんて、最悪な奴だな、お前は!」
「期待させたか、逃してもらえるって?」
「俺はお前を許さない、俺は…」
手を伸ばそうとして、槍を落とした。
それくらいしか、手が動かなかったのだ。
「何で、俺だけが力を奪われなくちゃならないんだ!」
「厄日だったか、日頃の行いが悪かったか、どっちもだったか…」
「…殺せ。これ以上、生き恥を晒しても仕方が無い」
諦めたわけではない。
きっと、こういう形だけの格好良さに襟櫛は憧れているはずだ。
こいつは若く、幼く、未熟で、物事の本質が分からず、俺の潔さに必ず、心を動かされるはずだ、絶対にそうに決まっている。
「分かった。じゃあな、青岸」
やはり、引っ掛かりやがった、馬鹿な奴だ。
俺は心の中で笑う、襟櫛を嘲笑う。
その瞬間だった、奴が二振りの刃を構えている姿を見たのは。
何を叫ぼうと思ったか、それすらも分からず、そして、俺は…。