カズトと青岸
世界が灰色で満たされてしまう。
その中を俺は走っていた。
谷川と唯と健一はどこに行ってしまったのだろうか。
先に、子供達を救うべきだろうか。
結論が出ないままに、俺は後者を選ぶような道程を辿っていた。
まあ、前者を辿るような道程は選べなかったというのも結論の1つではあるのだが。
やがて、辿り着いた大部屋で、鎖に繋がれ始めている子供達を見つけ、俺は繋ぎ始めている男達を即座に消した。
そして、鎖を全て消してやった後、大して済まなそうな様子も見せずに言った。
「遅れて悪かったな。全員、無事か?」
「唯と健一は!」
「おいおい、まずは自分達が助かった事を安堵しろよ」
「僕達は、貴方が来てくれたから、もう大丈夫と、そう思ったんです。でも、唯と健一と、あの男の人の姿が見えなかったから…」
「まあ、大丈夫だろうさ、谷川ならな。とりあえず、お前達は俺に従え、分かったな?」
「僕と、茜だけじゃ、無いんですか…?」
そういえば、唯と健一の2人を救うから、2人の命、未だ名前を知らないこの少年と、茜と呼ばれた少女の命を自由に出来るという話だったなと、今更ながらに思い出した。
「そういう屁理屈を四の五の言うのは、俺みたいに偏屈な大人になってからにしろ。今、お前達が発するべき言葉は、はいか了解かイエスか…、まあ、その辺りだ」
ちょっと、どこかで聞いたような事をパクってしまったんじゃないかと思いながら、俺は苦笑する。
「1つ、聞いてもいいですか?」
「いや、だから、はいかイエスか了解か、…あ、いや、違うな、イエスかはいか了解…?」
思いつきで喋ってしまった手前、自分でも意味が分からなくなってきて混乱してしまう。
そんな俺にツッコミを入れるわけでもなく、少年は言葉を紡ぐ。
「貴方は、青騎士ですか?」
一瞬、意味が分からなかった。
いや、一瞬じゃなく、考えて考えて考え抜いても、まるで意味が分からなかった。
何故、俺が青岸程度と同列視されなければならないのだろうか。
「おい、言って良い事と悪い事ってのは、ガキでも判別できるようにはしてくれよな。何で、俺が青岸なんだ。俺はカズトだ、それ以外でも、それ以下でもない」
「青騎士じゃないんですか…?」
「当たり前だ。俺が青岸のわけがないだろ」
ここまで返しておきながら、ふと思う。
もしかして、俺とこの少年は何か、別の話をしているのではないだろうかと。
考えてみれば、この時代に青岸は存在しておらず、少年が俺を青岸だというのはあまりにも奇妙な事だ。
だが、そうだとして、青岸とは何なのだろうか。
やはり、思いつく限り、青岸は青岸で、あの屑野郎だとしか、俺には想像できなかった。
「青騎士じゃないのに、僕達を導いてくれるんですか…?」
「導く?勘違いするなよ、俺とお前達は主従関係であって、俺はお前達を従えるんだぞ」
子供達を相手にして、何か恥ずかしくなってきた。
あの青岸は、こんな恥ずかしい事を平然とやっているのだから、やはり、屑野郎は屑野郎だと思う。
「僕はカズトに従います」
「アタシも…カズトに従う」
僕も、俺も、アタシも、私も、と声が続いていく。
「よし、これで決まりだな。まずは、谷川達と合流しなければならないが…」
そこで、俺は便利な特異性を思い出した。
そう、さっき、散々、考えを巡らせる羽目になった青岸の特異性『ビルメン』だ。
あの特異性があれば、この建物のどこに誰が存在するか、全てが分かるはずだ。
鎖で繋ごうとしている途中で俺に消された男達の中から、適当に1人を元に戻してやる。
「え、あ、え、ぇっと…」
「混乱するのは分かるが、質問に答えろ。『ビルメン』はどこにある?」
「あ、あそこに…」
白い球体が幾つか並んでいて、まるでどれなのか分からない。
俺はそれに近付き、適当に手を伸ばした。
「それだ。…だが、形勢逆転だな!」
男が茜を人質に取るようにして、俺に嗜虐的な笑みを浮かべていたが、それは無視して少年に問い掛ける。
「おい、少年、お前の名前は何ていうんだ?」
「時雨です」
「格好良いな、羨ましいぜ。俺もそういう名前が良かったな、似合わんだろうけど。ま、とりあえず、時雨、お前には『ビルメン』を使ってもらうぞ。これを握り潰せ」
「はい…」
時雨が白い球体を握り潰す。
それを見ながら、俺は茜を捕まえている男を消しておいた。
「これは、…えっと」
「唯と健一の場所が分かるよな?案内してくれ」
「は、はい!」
時雨が走り出し、それを子供達が追い掛ける。
俺もそれを追い掛けようとして、残っていた白い球体を全て消してしまう。
まあ、残したままなら、敵が利用する可能性があるかもしれないと思ったからだったが、それが正しい判断なのかは分からなかった…。