青騎士宣言
ジョージの叫び声が聞こえる。
間近で聞いたわけでもないのに、その状況を見ていたわけでもないのに、俺にはその意味が容易に分かる。
何故なら、今の俺の気持ちを代弁するような感情だったから。
「殺す…」
呟く、それを呟く。
俺は奴らを殺しに向かっている。
そう、俺が奴らを殺しに向かっている。
やがて、俺が見た光景は、失望と歓喜に満ち溢れていた。
失望はジョージが襟櫛に負けそうだった事、歓喜はそれでも2人が共に生きていた事。
「エリクシィ、ジョージぃ!」
こいつらは、俺に殺される為に生きていてくれた。
その嬉しさが、声を弾ませてくれた。
まあ、同時に俺だけを蚊帳の外に置き、自分達だけで殺し合いを始めていたこいつらに対し、堪えようのない怒りを覚えたのも、また、事実ではあった。
「主役の登場だ、拍手はどうした?」
「お前が主役って柄か?笑わせるなよな、雑魚が」
襟櫛の言葉に呼応するように、ジョージが笑った。
ただ、それも悪くはない。
ここが、最後の戦いになる場面だ。
何もかもが思い通りになったとしたら、逆に失望するだろう。
「まずは、襟櫛を落とす。持久戦にはなるだろうが、勝ちは俺に付くだろう。問題はジョージだが…」
問題は生じてから考えれば良い。
とにかく、動いてやる。
俺が襟櫛の方に向かって駆け出すと同時、襟櫛はジョージに向かい、ジョージは俺に向かって来た。
3人がそれぞれの背中を追い掛けながら、残念ながら、襟櫛が最速でジョージの背中を捉える。
奴はそれで最初にジョージを、次に俺を斬り裂いてくる。
勿論、ジョージは斬り裂かれてしまうが、俺は襟櫛程度の攻撃ではびくともしない。
結局、俺は殺せず、尚且つ、ジョージに対しても致命傷を与えられない。
やがて、まずは襟櫛が足を止め、俺が足を止め、ジョージが足を止めて、膠着状態に陥ってしまう。
「自分だけが一方的に攻撃を出来る立場ってのは羨ましいもんだな、襟櫛よぉ?」
こういう時、残念なくらいに困ってしまうのだが、俺は襟櫛に話し掛ける以外に選択肢がないのだ。
すでに、ジョージは人ならざる者であり、思考の断片を想像する事くらいは可能だが、意思の疎通などは不可能だったから。
「だが、膠着状態になるって事は、本当に俺だけが一方的だって事じゃないからだ」
「そうだな。お前の安い攻撃じゃ、ジョージはともかく、俺は殺れねぇ」
「安い攻撃も繰り返せば、響くかもしれないな。試してみるのも悪くないが?」
「だったら、試してみろよ。さあ、やれよ、無様に踊って見せろよ」
俺から挑発したわけだが、こういう挑発の繰り返しに少し飽きてもいた。
わざわざ、俺がここに戻って来たのは、純粋な強さを求めた結果であり、こういう馬鹿げたやり取りがしたかったわけじゃない。
とにかく、考え方が甘かったのだ。
襟櫛の方は殺せるだろうから、襟櫛の方を殺す。
そういう事ではなく、ジョージも殺さなければならない。
ジョージだけが残ってしまい、さっきと同じように一方的な攻撃を喰らわされたりしたら、何の意味もない。
襟櫛に向けていた視線を、ジョージに合わせた。
そして、それを2人に合わせる、俯瞰で見る。
「俺はお前達を殺しに来た、この灰色の世界で、いや、灰色の世界の青騎士が、お前達を殺しに来た!」
改めて宣言する。
2対1になっても構わない、勝つのは俺だ…。