襟櫛の三竦み
「こうやって、…こうか?」
真似をする、ジョージの真似だ。
遠当て、それは師匠である最強の衝撃波にも似ていて、俺の憧憬にも近い物ではあった。
刃の閃きが、ジョージを襲う。
鋭く速く、それは彼を裂いたが、威力はあまりにも弱い。
だが、衝撃を与える事には成功したようだ。
ジョージが戸惑ったように首を傾げ、俺を見ていた。
俺をジッと見ていた。
やがて、その両眼は兇気に染まり、彼は喉を鳴らすような叫び声を上げ始めた。
「殺す…」
その叫び声を言葉にするならば、それ以外にはなかった。
勿論、それは俺も同じだ。
ジョージを殺す為、青岸を殺す為、俺はこの灰色の中に来たのだ。
二度と、外の世界で普通に暮らす事は出来ないだろう。
それが分かっていても、こいつらを殺す為に俺は修羅の道を選んだ。
同時に動く、が、勿論、俺が速度で負けるわけがない。
さっき、それはすでに判明していた事だ。
ジョージの殺意が、その狂ってしまった殺意が、彼を動揺させてしまい、無様な結末へと向かわせる結果になってしまったのだとしたら、あまりにも虚しく感じてしまう。
この程度の奴を相手に、俺は残りの全てを捧げてしまったのだろうか。
「エリクシィ、ジョージぃ!」
そうだ、役者が足りなかった。
青岸が立っていた。
全身を、それこそ、顔までをも青い兜に包まれているので、その表情は窺い知る事も出来なかったが、それでも、彼が憤怒に心を焦がしている事は分かった。
「主役の登場だ、拍手はどうした?」
「お前が主役って柄か?笑わせるなよな、雑魚が」
俺の言葉に呼応するように、ジョージが笑った。
もう、ここに集った3人が3人とも分かっていた。
これが、最後の戦いになると。
誰が勝つにしても、敗者に生存は有り得ない。
俺はジョージを殺せるが、青岸の頑丈さには手を焼くだろうと考えていた。
ジョージは先程の戦いを見ていて分かるのだが、青岸は苦にしないだろうが、俺の速度には抗できないだろう。
そして、青岸は持久戦で俺を殺せると思っているはずだが、ジョージを相手にしては一方的に封殺されるはずだ。
つまりは、三竦み。
「まあ、殺せる奴から殺すか…」
俺がジョージの方に向かって駆け出すと同時、ジョージは青岸に向かい、青岸は俺に向かって来た。
まるで、馬鹿げたお芝居だ。
3人がそれぞれの背中を追い掛けながら、勿論、俺が最速でジョージの背中を捉える。
捉えながらも、斬り裂いて抜かしてしまえば、逆に青岸と遭遇する事になってしまう。
それすらも斬り裂こうとして、奴の頑丈さに弾かれて舌打ちし、反転して再び舌打ちした挙句に、ジョージを斬り裂きに行く。
流石に、これでは埒が明かない。
まあ、俺だけが攻撃しているのだが、これではどうやっても勝ち切れないだろう。
そして、また、膠着状態に陥る…。