カズトの残酷性
再び、子供達が監禁されていた場所に戻ると、そこには3人の研究者がいた。
「侵入者と裏切者、確定したよ」
3人の中で一番チビな男が銀縁眼鏡をクイッとさせながら言った。
子供達の姿は見えない。
彼らに殺されてしまったのだろうか。
それにしては、死体が見当たらないのはおかしい。
まあ、彼らの誰かが、『消失』を使えるとするならば、おかしい話ではないのだが。
「谷川…、悪いけど、頼みがある」
「貴様の頼みなど…」
「裏切者と確定してしまった谷川にこそ、頼みたいんだがな」
「屑が。とりあえず、頼みとやらを言ってみろ。内容次第では考えてやらなくもない」
「2人を連れて逃げろ。時間は稼いでやるから」
「おい下手な小細工はするなよ」
3人の中で一番のっぽな男が金縁眼鏡をクイッとさせながら言った。
「行け、早く!」
谷川が頷き、唯と健一を促して走り出そうとした時、3人の中で一番普通な男が片眼鏡を光らせてこちらの後方に出現し、動きを牽制してくる。
俺は舌打ちと同時に、その普通な男を消してしまう。
そして、谷川に向かって頷き、彼と子供達を逃した。
「侵入者は『消失』を使える、理解したよ」
銀縁チビが余裕たっぷりにそう言ったのが少し苛立ったので、俺はそいつも消してしまった。
「まあ待て焦るな『消失』よ」
金縁のっぽが焦っていったのが面白くて、そいつは安易に消さなかった。
「話があるなら、聞いてやらなくもないけどな」
「ここにあるのは特異性の原点である白い球体でこちらにあるのはその特異性の効果を打ち消す黒い球体だ」
「はぁ…」
すでにして、飽きてきた。
もう、黒い球体の無意味さは体験していたからだ。
ただ、特異性の原点であるという白い球体には、幾許かの興味があった。
だから、ちょっと工夫は必要だったが、金縁のっぽだけを消してしまって、その2つの球体は落ちる前に手に入れた。
「要するに、だ。この2つを同時に握り潰せば良いって事だな」
そんな事は誰も言っていなかったが、まあ、握り潰さなければ発動しない代物ならば、握り潰してしまう以外に何かがあるとも思えなかった。
グシャッと白と黒を握り潰すと、その2つは奇妙に混ざり合い、灰色となる。
そして、世界が灰色に染まっていく。
「はぁ…、なるほどね。これが、灰色の始まりか」
恐らく、推測するに、この過去において、子供達は何らかの手段を使って、この灰色を手に入れたのだろう。
ただ、手に入れた時には散々、虐待を受けた後だったので、ああいう状態になってしまったというわけだ。
「さあ、過去を変えちまったわけだが、未来はどうなるんだろうな。とりあえず、俺は死ねなくなっちまったという事かな」
少し笑った後で、俺は広がっていく灰色を辿るようにして、谷川と子供達を追う。
そこで、ふと思い出し、さっきの3人組を戻した。
「久し振りだな?お前達に聞きたい事がある。答えをくれたら、消さずに見逃してやる。黙秘権を行使するなら、1人ずつ消してみるとしよう」
3人組は灰色を見て、笑っていた。
嫌な笑い方だった。
「灰色の世界だね、確認したよ」
「これで死の概念はなくなったこちらの勝ちだよ『消失』の男」
「黙れ、囀るな」
そう言って俺は、何も喋らなかった普通の男を消した。
「灰色の世界を確認した、なのに、何故…?」
「灰色の世界でもその中では死んでしまうという事か…」
黙らずに囀ったので、俺はさらに銀縁チビを消した。
「じゃ、落ち着いたところで質問するぞ。子供達をどこにやった?」
「答えると思ったかそれを答えたら俺は消されて終わりだろ交渉だ消した奴を元に戻せば子供達の居場所を教えてやる」
右足を消してやると、バランスの取れなくなった金縁のっぽは無様に崩れ落ちる。
「で、子供達はどこにいる?」
「足を返してくれるのか答えたら…」
俺は横っ腹を消してやり、笑顔を見せてやる。
「で、子供達はどこにいる?」
恐怖を打ち消すかのようにペラペラと子供達の居場所を話してくれたので、俺は笑顔で礼を言った後で金縁のっぽを消してやった。
何か、礼を言った時には救われたような顔をしていたのが、少し印象的ではあった…。