青騎士の青岸
言葉を発する暇も、声を発する余裕も与えられず、俺はジョージに痛め続けられていた。
抜け出そうとしても、逃げ出そうとしても、まるで不可能だった。
鎧が頑丈だからこそ、中身には響いている程度で済んでいるのだが、いつかはそれも限界を迎えるだろう。
そう、限界を迎えるのだ。
だからこそ、これを何とか打破できる内に何とかしたいのだ。
まあ、何とか打破できないから、今がこういう状態であるわけなのだが。
堂々巡りをする思考に苛立ちを覚え、俺は叫び声を上げる。
上げるが、それもまた、ジョージの暴威に圧され、響く事すらもなかった。
八方塞がりの状態で、ジョージが息切れするなんて期待すらも出来ず、このまま封殺されてしまうのだろうと考え始めていた時、突如、攻撃の雨が止んだ。
鎧は頑丈で、ただ、中身には響いていただけだと思っていたが、攻撃が止んだ瞬間、俺の足腰は俺自身を支える事が出来ず、崩れ落ちてしまった。
ジョージを見上げる俺の視線は、奴が他の誰かを見ていると分かって、寂寥と虚しさに襲われてしまう。
だが、それも僅かな間で、すぐにジョージが俺に視線を戻した。
立ち上がらなければならない。
この体勢は、極めてマズい。
殺してくれと言っているようなものだ。
そう、そういう状態だ、それなのに、ジョージは俺に興味を失ったかのように、俺を蹴り飛ばしてしまう。
空中に舞い上がり、戦場を離れていく最中、俺の視線は捉えていた。
ジョージともう1人、そうだ、俺はよりにもよって、あの襟櫛に救われた。
着地、ではなく、落下。
地面を転がり、そして、動けないままで怒りだけが先行する。
「クソッ…」
ジョージは俺と戦う事に飽き、襟櫛と戦う事を選んだのだ。
まあ、考えてみれば、さっきのは戦いですらもなかった。
前半は俺が一方的に攻め、後半はジョージが一方的に攻めた。
まるで、ターン制のゲームでもやっているかのようだった。
「エリクシィ…、ジョージぃ…」
このまま、ここで転がっておけば、さっきと同じになる。
ジョージとメアリが戦い、傷付いたジョージと戦えた。
今度は、ジョージと襟櫛が戦い、どちらが勝ったとしても、さっきのジョージよりも酷い状態になるのは確実で、今、俺は静観をするのが正しい。
「正しい、か…」
俺はメアリから逃げ、襟櫛から逃げ、ジョージに敵わず、それで、いつかを待ち続けるのか。
それが、世界征服にとって、最善にして最高のやり方。
「笑わせンな…、世界征服なんざ、いつから、俺の全てになった…?」
俺は強くありたい、誰よりも強く、この世界を統べる強さを持ち、その結果として、世界征服があれば良い。
意地とかプライドとか、そういうのを全て動員して、俺は無理矢理に立ち上がった。
弱いままで終わるなら、強さを目指して死ね。
逃げてばかりだった人生に、鞭を打て。
轟け、叫べ、響け、貫け。
俺は青騎士、灰色世界の青騎士、この世界を統べる最強の青岸なのだ…。