襟櫛とジョージ
灰色の中に入った俺は、衝撃の光景を目の当たりにしていた。
青岸がジョージにボコられまくっている。
もう、容赦の欠片もなく、散々、徹底的に完膚なきまでに。
正直、満身創痍で血塗れのジョージがそれをやらかしているところに、とてつもなく違和感を覚える。
仮に、だ。
青岸がジョージに殺されるとして、それは俺にとってどうという事はない。
ただ、青岸は俺が殺したかった。
それが、心に残るだけだ。
そして、俺にとっては心に残ってしまうなら、阻止しなければならない。
わざわざ、もう、普通に生きる事を諦めて、この灰色の中に飛び込んだのだ。
それなのに、これ以上、俺が何かを諦めなければならないなんて、絶対に間違っている。
戦装束に、二振りの日本刀。
これが、俺の全てだ。
メアリを殺す方法は考えられたが、相手がジョージとなってしまうと、話はまた別だ。
「奴を殺すのは、難しい…」
考えている間にも、青岸は怒涛の攻撃を喰らいまくっているが、そこは奴の頑丈さを信頼して放置しておく。
ジョージを注意深く観察してみると、その満身創痍の肉体には無数の刺し傷があった。
この場にいたであろうブッチデヨ、ストラ、子供達はジョージの相手になったとは思えない。
そして、メアリは八つ裂きマシンであり、あの刺し傷とは無関係だろう。
だとすれば、刺し傷を作ったのは、青岸という事になる。
「アレを利用するか…」
踏み込む、と同時、刺し傷に刃を突っ込み、抉り抜き、一瞬で離脱する。
ジョージの動きが止まり、すでに動きを止めていて生きているのか死んでいるのかも定かではない青岸が崩れ落ちる。
ジョージと視線が合う。
ただ、彼の間合いには入っていないので、視線が合っているだけだ。
最強と共にジョージと戦った時が二度目、一度目は痛み分け、そして、今が三度目。
余裕か、或いは慢心か、ジョージは俺から視線を逸らし、動かない青岸を見やり、思い切り蹴り飛ばした。
遥か彼方に飛んで行く彼の姿は、何とも言えず、虚しさを覚えてしまう。
そうして、また、ジョージが俺と視線を合わせる。
この距離は奴の間合いではない、俺の間合いではある。
「アァァァァァ…」
呻くような囁くような、そんな声が漏れ始める。
何をしようというのか、何が起こるのか、俺はジョージから視線を逸らさない。
瞬きもせず、ジッと見つめる、見つめ続ける。
パンッと、まるで両手を打ち合わせたかのような音が響いた瞬間、ジョージの拳が俺の眼前に迫っていた。
慌てて避けるが、実際にはジョージが移動したわけではなく、その拳撃のみが俺を襲ってきたのだ。
遠当てとでも呼べば良いのだろうか、奴は強引に間合いを伸ばしてきた。
「カカッ!」
笑う、奴が笑う、俺を嘲笑う。
「舐めるなよ、ジョージ…」
最速の俺が、今度はやり返す番だった…。