山田が遭遇するラスボス
「とにかく、今は外に出よう、山田君」
そういう九の言葉に促されるように、等々力、番井、真南と一緒に、外へと出た。
どうやら、彼らは外の状況を知らなかったらしく、外は外で凄まじい戦場と化していたんだと知って、ショックを受けているようではあった。
ただ、まあ、そのショックを圧するかのように、現に建物は動き続けており、今はこちらと同じように外へと身を出した道化王が、確かにそれを持っていた。
しかし、これからどうしたものだろうか。
周囲を取り囲んでいる警察や自衛隊の連中は、未だ、事態を把握しておらず、逃げようとも隠れようともしていない。
一部の頭が良い連中だけが、その場を離れつつあるようだったが、職務違反のような扱いになっているのが笑えてしまう。
職務よりも命が大事という、人間にとって至極当然な欲求に従っているだけに過ぎないのに、だ。
「さて、と、戦える自分達は逃げるわけにはいきませんよねぇ…」
まあ、そもそも、道化王が逃してくれないだろう。
特に、彼から京通を奪った自分と、凄まじい恨みを買っている真南は。
「思いもよらなかった事だが、とりあえず、あの建物を全員で破壊する事に専念するしかないだろうな」
その場を仕切るように、九が発言する。
正直、彼がいてくれて、本当に有難かった。
自分では、この面子を纏め上げるなんて事はどう考えても無理だったから。
「だが、相手は建物ですよ。そう簡単には…」
真南が、まだ、丁寧な口調は維持しつつ、それでも、否定的な言葉を吐く。
「しかしですね、まあ、あの建物をそんなに素早く動かせるわけもないでしょうし、案外、簡単に事を運べる可能性もありますよ」
「それは、どうかな?」
等々力の意見に対し、まず反応したのは、その場にいた誰でもなく、道化王だった。
近くにいないのに声だけが聞こえ、不気味だった。
そして、その不気味さを拭い切れない内に、凄まじい速度で建物が持ち上がり、一気に勢い良く叩き付けられた。
それは狙ったとしか思えない正確さで、等々力だけを無残に潰してしまう。
悲しみや嘆きよりも、その傍若無人たる強さに、一同は言葉を失う。
「さあ、どうしますか?当然、皆さんは逃がしませんから、せめて僕を楽しませて下さいね」
改めて、道化王を見やる。
これほどまで、彼がラスボス感を出してくるとは、流石に想定外だった。
どこかに穴はある、それは確かだ。
何故なら、彼は道化王なのだから。
しかし、その穴を突けるほど、こちらに余裕はない。
すでに、等々力を失い、戦力の2割が削られた。
さあ、どうしようかと、まずは溜息を吐くしかなかった…。