青岸の天辺
無事に襟櫛から逃れた俺は、会心の表情を浮かべてジョージの元まで来ていた。
まあ、俺は今、全身、頭から爪先まで、青い鎧を纏っているので、その表情はジョージからは窺い知る事も出来なかっただろうが。
「よぉ、ジョージぃ、随分とボロボロになって、メアリに苦戦させられたのが分かるよぉ」
そう、予想外にも、ジョージは満身創痍になっていた。
その姿に、俺は余裕を感じていた。
襟櫛を殺すのは容易でないと思ったが、このジョージを殺すのはさほど苦労しないはずだ。
苦労しないはずだった。
突如、俺に衝撃が襲う。
殴られた、と分かった時には、吹っ飛ばされていた。
「ジョージぃぃぃぃ!」
キレた、理解できないくらいの怒りが奔流となり、俺の中で荒れ狂う。
『ビルメン』で全てを把握している俺にとって、ジョージの背後に回り込む事は極めて容易だった。
そこで、心臓を一刺しに貫いてやれば、俺の圧勝で終わっていただろう。
だが、それだけで終わらせてやるには、ジョージへの怒りはそこまで軽くなかった。
右肩を遠慮無く、深々と貫く。
右腕がだらしなく垂れ下がり、俺は自分で信じられないほどの獣じみた笑い声を上げていた。
「ジョージよぉ、どうだよぉ、俺様の槍捌きはよぉ?」
槍を引っこ抜き、ジョージの反応を待つ。
彼は動かず、むしろ、身を小さくして防御態勢に移行したようだ。
それは、強者に対する弱者の反応であり、俺のプライドは良い意味で激しく刺激された。
「いいねぇ、いいや、いいよ、いいさ、いいぜ、いいんだ、それでこそ、俺に従ってたジョージ君だよなぁ!」
矢鱈滅多ら、俺はジョージを刺しまくった。
もう、貫くような真似はしない。
致命傷を与えず、なぶり殺してやるのだ。
ジョージだけに頼り、ジョージの機嫌を損ねないようにし、ジョージに全てを任せようと思っていた俺が、今や、彼を圧倒し、這い蹲らせ、殺そうとしている。
その高揚感たるや、全ての快楽悦楽に勝った。
「ハハハハ、ジョージぃ、ジョージぃ、ジョージぃよぉ!」
ジョージは全く動かず、俺に刺されまくっているだけで、それだけで、それだけだった。
もしかしたら、致命傷を与えないように気を付けてはいたが、すでに俺はジョージを殺してしまったのかもしれない。
まあ、念には念を入れ、俺はジョージの心臓を貫いてやろうと、両手で確りと長槍を構え、両足を確りと踏み込み、一気に刺突を行う。
だが、その瞬間だった。
ジョージの『破天荒快男児』が、長槍の穂先を払い、奴の鈍く光る眼光が俺をまっすぐ見据えた。
逃げる必要を感じ、逃げようとして、ほぼ一瞬で間合いを侵略された。
その速度は、恐らく、襟櫛すらをも上回り、そこから、信じられないほど殴られ蹴られ、止め処もなく止めようがなく、一心不乱に攻撃を喰らわされる羽目になった…。