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青騎士  作者: シャーパー
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最強

寒い。


夜の公園、ベンチに座って、俺は煙草と缶コーヒーをお供に、人を待っていた。


約束の刻限、その15分以上前から待ち続けていた。


万が一にも遅れたりしないように、相手を待たさないように、早めの到着を意識した結果、寒い。


そして、約束の刻限、5分前。


男は現れた。


姿を見せ、こちらに向かって歩いてくる。


組織内、いや、組織外でもそうだが、『最強(サイキョウ)』と呼ばれている。


馬鹿にされているような呼ばれ方だが、組織内では厳かに、組織外では畏怖を込めて、そう呼ばれている。


呼ばれている本人も、謙遜もせず、恥ずかしがりもせず、照れもしなければ、否定もせず、それを当然のように受ける。


最強が眼前まで来た時、寒さなんて完全に忘れていた。


なのに、声が震える。


「よお、久し振りだな、最強…」


「声が震えているな。寒かったか?待たせて悪かったな」


寒さのせいなどではない事を分かっていて、それでこういう事を言うから、俺はこいつを好きになれない。


「飯でも食いながら話をするか?」


「いや、お前が相手だと、何を食っても飲んでも不味く感じられるだろうから、ここで終わらせよう」


いちいち、癪に障る奴だ。


だが、この手のやり取りにキレた奴の末路を聞いた事は何度もあったし、懸命な俺は笑っておく。


「馬鹿にされて笑っていられるなんて卑屈な奴だな。それとも、馬鹿にされてるのも理解できないか?」


心底、殺したいと思った。


でも、彼我の実力差が大きすぎて、その望みは叶わないだろう。


「お互いに時間を無駄にしても仕方がないし、仕事の話を始めよう」


「お前が俺を引継いであの現場に入ったらしいな」


「ああ、そうだ。だから、お前が持ってる情報を全て提供してもらいたい。組織からも指示は出ているだろう、俺に全てを託してもらうぞ」


組織の後ろ楯が無ければ、最強にここまで言う事は出来ない。


だからこそ、俺は現状が少し楽しくなってきていた。


「断る。それと、笑わないでくれ。気持ちが悪くなる」


流石にこの言い種にはキレかけた。


だが、俺は自分を制御する術を心得ている。


気持ちを落ち着かせながら考える。


去年のこいつは誰よりも長く粘ったと聞いている。


最強なんて呼ばれている自分が2年間で何も成し遂げられなかったのが相当悔しかったのは、容易に想像できる。


それを格下だと見ている俺にかっ攫われるなんて我慢できないといったところか。


「今回は、俺に手柄を譲って欲しいんだ。最強と違って、俺みたいな奴はこういうチャンスを大事にしていかないと駄目だからさ」


敢えて下手に出て、最強のプライドを満足させてやる。


「嫌だ、何度も言わせるな」


「何でなんだ!もう、関係のない話じゃないか!いつか、今回の礼は必ずする!信じてくれ!」


勿論、礼なんてするつもりはないし、下手に出てから激するまで予定通りの流れだ。


最強が値踏みするように、俺を見てくる。


「弱さというのは、寂しい事だな」


「じゃ、じゃあ…」


「勘違いするな、俺はお前に何も譲らない」


何故、こんなにも頑ななのだろうか。


それに、教える気がないなら、来なければ良かったのだ。


そうすれば、こちらも組織に文句を言うだけで済んだわけだし、最強も適当に突っ撥ねるだけで終わりだったはずなのに。


「さっき、お前は手柄を譲って欲しいと言ったな?」


「あ、ああ…、そうだ」


「譲る事は出来ない。それどころか、奪いに来た」


「な、何を言って…」


「来月、俺は復活する」


「えっ、あ、は、あっ、はぁ?」


「今日、俺がお前に会ってやったのは、チャンスをくれてやる為だ」


「チャンス…、だと?」


「ああ、チャンスだ。元々、去年の段階で俺が組織の要請に応じて撤退を決めたのは、組織があの現場自体を諦めると聞かされたからだ。かなり異例の事だが、あそこでは問題が起こり過ぎていたからな」


最強が撤退を信じてしまうくらいの異常事態。


報告書だけでは分からなかったが、現場ではそれだけの事が起きていたのだろう。


それにしても、復活するならば、確かに手柄を奪われる。


チャンスも何もあったものではない。


「で、チャンスっていうのは?」


それでも、俺は可能性に縋らざるを得ない。


「例えば、明日にでも、俺は復活しても構わないと思っている。社長からもそういう話を貰っているからな。だが、それを来月まで待ってやる。今月の間にお前が成果を出せば、手柄はくれてやるさ」


傲岸不遜。


最強と呼ばれる奴が2年間で辿り着いた答えに、たった1ヶ月で辿り着けという。


「不満そうだな?じゃあ、こっちの手柄はどうだ?」


最強が無造作に、俺の缶コーヒーを奪い取り、滅茶苦茶な方向に投げた。


その瞬間、投じた方向で誰かが動いた。


何事か分からず、呆然としている俺に対し、最強が笑う。


「裏切り者だ。最初から潜んでやがったぞ、気付かなかったか?追いかけて始末するなり、捕らえるなりすれば、手柄になる」


裏切り者に見当はついている。


俺は最強を見て迷い、すぐに切り替えた。


「来月までに終わらせておいてやるさ」


「手柄が2つになるな」


振り切るように駆け出した。

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