山田と道化王
「最上部が全て開いた不完全な京通なんて、自壊するのが当然でしょうねぇ」
その『道式論』によって、道化王が散々振り回してきた京通が一気にバラバラに砕ける。
それによって、少しでも動きを鈍くしようと張り付いていた等々力が、一緒に弾き飛ばされてしまったのは不幸な事ではあったが、まあ、仕方が無いだろう。
「僕の京通が…」
「違いますねぇ、あの京通は、そう、わざと不完全に作ったあの京通は、自分が手がけた作品なんですよ」
「僕の京通…が」
「さあ、道化王、京通の秘密を明かしてもらいますよ」
もう、道化王には為す術がないだろう。
彼はずっと、京通に頼った戦い方をしていて、それ以外では戦い方を知らないようだった。
もう1つの特異性を使ってその程度であるとは、元々が薄っぺらい道化であったとしても、あまりにも高が知れ過ぎているが、それが事実である以上、同情を通り越して憐れみすらも感じる。
「僕…の…京…通…が…」
地震が起こった。
それはあまりにもタイミングが良すぎて、単なる偶然だとはとても思えなかった。
「…星の瞬き」
最初に動いたのは、九だった。
いや、実際には九以外、誰も動けなかったというのが正しい。
「あ…!」
その時、確かに失策を犯してしまった。
道化王を殺してしまえば、京通の秘密を暴けなくなるから、それを九に伝えようとしたのだが、今、ここで道化王を殺しておかなければ、こちらが全滅する可能性もありそうだったから、九は動いたのだ。
それが分かって、それでも間に合わず、半端に声を出してしまって、九の動きを僅かに鈍らせてしまった事が悔やまれる。
九がこちらを見やって、大丈夫だから殺ってくれというように大きく頷いてみせ、そこから殺しにかかるという一連の無駄が、道化王を救った。
地震が凄まじい規模になり、元々、足を悪くしている九はそれで体勢を崩してしまい、尻餅をついてしまう。
慌てた番井と真南が、この時点でようやく動いたが、時すでに遅しといった感は否めなかった。
道化王が京通を持っていた。
その事をその場にいた全員が理解した。
そう、奴は建物自体を京通に変えてしまったのだ。
そして、それを持っていた。
建物を持つ、それは所有するという意味ではなく、文字通り、持つという方。
手で持っていたのだ。
「さっきまでのデブの守衛と同じように、全員で僕の京通に張り付いて、何をやらかしたいんですか?」
ゾクッとした。
もう1つの特異性を使った道化王の、京通に特化した姿が今、厳然として存在していた。
「さて、第2ラウンド、いや、最終ラウンドを始めますね」
「いやはや、これは困りましたねぇ…」
間違いなく全滅する、その可能性しか考えられなかった…。