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青騎士  作者: シャーパー
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山田は見ているだけ

「どうしたんですか?ビビっちゃったんですか、山田さん?」


その問い掛けに驚愕しなかったなんて言ったら、誰も信じなかっただろう。


その場にいた誰もが驚愕し、京通を振り回す道化王を見つめていたから。


「何で、意識を保っていられるんですかねぇ…」


2つ目の特異性は、その異常なまでの強さと引き換えに、自我を奪ってしまう。


いや、正確には自我を捨てる事によってのみ、その異常なまでの強さを得る事が出来ると言うべきだろう。


それなのに、この道化王はただの道化の分際で、自我を保ったままで2つ目の特異性を使い、異常な強さを手に入れてしまったのだ。


「京通王!」


「は、はぁ…」


「選ばれし存在である京通王は、全てを可能にする最高の逸材なんですよ」


という事はだ、カズトも2つ目の特異性を使って、尚、自我を保てるのだろうか。


とても、そうは思えない。


そもそも、京通王という蔑称にそこまでの意味があるわけもない。


「それで、今から、どうなさるおつもりなんですかねぇ?」


「皆殺し、ですよ」


まあ、それはそうだろうな。


それ以外であったとしたら、さらに驚愕させられるところだった。


「危険な思想を持っている山田さんは、…死刑。この建物の人間であるのに裏切ろうとしている3人は、…死刑。でもですね、真南ぃ!お前だけは簡単に死ねると思うなよ!お前だけは、積年の恨みを晴らして、この世に生まれた事を後悔するような殺し方で殺してやる、分かってるよな!」


そういえば、この道化王は以前から、真南を毛嫌いしていた。


その傲慢な態度が嫌だというか、憎悪に値するのだと。


自分も似たような感想を抱いたわけだが、ここまで殺意を向けられると、どんな気分になるのだろうか。


「そうか、そうか、俺も昔から、お前のそのヘラヘラした気持ち悪いとしか表現できない笑い方が大嫌いだったよ。それで、俺に殺意を向けた以上、お前は死ぬしかないぞ?」


どうやら、2人はお互いを嫌い合っていたようだった。


これで、まあ、1人目の戦意というか殺意は確保できたが、他の面々はどうだろうか。


確認するように視線を向けていってみると、それぞれがすでに自分の特異性を使い始めていて、むしろ、自分の方が呆けていたみたいで恥ずかしくなる。


「やれやれ、京通の謎を暴くには、この京通王ならぬ道化王を倒す必要がありますかねぇ」


「ウォラウォラウォラウォラー!」


真南が怒号を発しながら、転がっている物を手当たり次第に投げていく。


道化王はそれを京通で防ぎながら、余裕綽々といった態度を見せつけていた。


「俺も参戦しようか」


しゃがれた声で言い、番井が道化王に突っ込んで行く。


両手に鉄製の柱を持ち、それを振り回しながらだったが、真南の攻撃に合わせてそれをも京通で捌いていく姿は流石に2つ目の特異性を使っていると思わせた。


「では、山田さん、私も行って参ります」


「お気をつけて、等々力さん。あの道化王は生半可な敵ではないですよ」


等々力は頷くと、その巨体を揺らして道化王ではなく、振り回している京通の方へとにじり寄った。


そうして、京通の先にがっしりと張り付いた。


最初、何をしているのかが全く分からなかったが、道化王の京通を振り回す速度が明らかに鈍ったのを見て、彼の特異性を理解した。


「自分の体重を倍加して、動きを制限するとはやりますねぇ」


正直、真南や番井の戦い方では自分の役にはあまり立たないと思ったが、等々力の行動は戦力として充分に計算できるものだった。


肩にポンと手を置かれ、勿論、それが誰の手なのか、ここに残されているのは1人だけだったので確認せずとも分かって、ホッと一息つく。


「では、山田君、俺も行ってくるよ。この戦いに終止符を打つのは、君の役目だ。分かってるね?」


「はい、お任せ下さい」


九は満足そうに頷き、びっこを引きながら、ゆっくりと前に出た。


そして、右手を伸ばし、親指を弾きながら呟く。


「…星の煌き」


次の瞬間、光弾を眉間に受け、道化王が上を見させられる。


「…星の輝き」


常時では考えられない速度で距離を詰め、撥ね上がっている顎を九の掌底が打つ。


「星は堕ち…」


顔面を掴み、そのまま地面へと叩きつける。


「星は巡る…」


顔面を持った手を回転させ、地面との摩擦で頭を潰そうとした時、道化王はようやく反応し、強引に振り回した京通で九を弾き飛ばした。


それを狙い澄ましていたかのように、真南の投擲と番井の鉄柱が踊ったが、それも京通で何とか防いでしまう。


そこで、結論に至る。


弱い。


2つ目の特異性を使ったにしては、明らかに弱い。


これは、自我を保ってしまった事による弊害なのかもしれない。


殺意だけが尖った状態ではない為に、変に理性的である為に、妙に感情を残してしまったが為に、倒せる可能性を感じてしまう。


勿論、こちらも無傷というわけにはいかない。


それでも、全滅を覚悟しなければならないほどの絶望感はない。


「ではでは、真打ちである『道式論』も参戦させてもらいますかねぇ」


恐るべきは道化王ではなく、京通だ。


そして、それを攻略する術はすでに、自分の中にあった…。

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