青岸の青騎士
「よお、襟櫛、久し振りだな…」
「久し振り?さっき、一瞬で八つ裂きにされた時、散々、俺を口汚く罵ってくれてたじゃないか」
俺は舌打ちする。
『ビルメン』で見ている灰色の世界では、ジョージとメアリがいつ終わるともしれない戦いを続けている。
とりあえず、俺はここから離れた場所で襟櫛に殺される必要があった。
復活した場所が、ジョージやメアリから離れていれば、『ビルメン』で傍観していられる立場になれるからだ。
しかし、こいつを相手にして、この襟櫛を相手にして、それが可能なのだろうか。
しかも、『ビルメン』は今、灰色の世界に固定していたから、こちらでは自力で動くしかない。
視線を少し右にずらした時、そこに襟櫛がいた。
今まで前方にいたはずの彼が、何故か、俺の右横に存在していた。
「逃すと思うなよ。お前はここで殺す」
何かが崩れ去った、ような気がした。
それに合わせて、俺はもう1つの特異性を躊躇なく使っていた。
不思議と、何も変わらなかった。
俺は俺のままで、もう1つの特異性を使ったにも関わらず、俺を保ったままでいる。
「フハ…、フハハハ、襟櫛…、襟櫛よ…、俺は…」
「化物になって、自我を保ってるのか…」
「化物?違う、違うよ、違うぜ、襟櫛よぉ!俺は、青騎士は、選ばれた存在なんだ…、最強も、ジョージも、メアリも、カズトも、山田も、襟櫛、お前だってなぁ、俺に比べたら、格下の雑魚の屑の弱者だ!」
「青岸…、いや、青騎士か…」
襟櫛の呟きに、俺は俺を見た。
青く輝く鎧を纏い、白銀の長槍を持っている。
戦い方は本能が教えてくれる。
一瞬で襟櫛に正対し、長槍を突き出す。
だが、それは避けられてしまった。
まあ、こいつはメアリの八つ裂きを幾度も繰り返し避け続けていた奴だから、理解は出来る。
出来るが、苛立つ。
「遅いな…、メアリよりも遥かに。鋭さもまるで足りない」
「ふざけるなよぉ!俺は、この俺様、青騎士様は、もう1つの特異性を使って、この世界で自分を保っていられる唯一無二の最強…」
胴体を思い切り、二振りの日本刀で薙がれた。
今までだったら、これだけで殺されただろう。
だが、衝撃はあれども痛みはなく、効かなかった。
「軽々しく、お前みたいな雑魚が最強を称するなよ…」
「最強は最強だろうがよぉ!俺を殺せないお前が、俺を最強と認めないなんて、傲慢だな?」
時間は掛かるかもしれないが、俺はこいつに勝てる、襟櫛に勝てる。
そうだ、カズトや山田にだって勝てるし、ジョージやメアリも襟櫛の後に葬ってやろう。
最強は死んだ。
襟櫛を殺し、カズトと山田を始末し、ジョージやメアリを葬れば、もう、この俺に刃向かう奴は誰一人としていなくなる。
灰色の世界で欠損したまま無残に死んだ子供達も、世界を統一する青騎士の為に死ねたのだとしたら、光栄な事だろう。
「襟櫛、俺は世界を統べるぞ!」
「調子に乗るなよ、雑魚騎士が!」
白銀の長槍を襟櫛の二振りの日本刀が受ける。
ああ、俺は今、こいつと対等にやり合っているのだ…。