山田と京通王
「完成ですねぇ」
僅かではあったが、確かに満足感を覚えていた。
敢えて、バージョンS1というシンプルな形にしておいたのには理由がある。
かつて、最強が共に調べていた時、彼はV4やF5まで作った事があったらしいのだが、結局、S1というシンプルな形が最も調べやすいという結論に達したと言っていたのだ。
だから、バージョンS1なのだが、最上部でぱっくりと口を開いた異様な姿は、やはり、空恐ろしい気分になる。
自分が作った失敗作を片付けてくれた九が、番井と真南を引き連れて戻った時も、流石にこの異形に度肝を抜かれたようだった。
「では、運用しましょうかねぇ」
要領を知らない等々力は論外として、足を悪くしている九も難しいだろうし、慣れていない番井や真南にも期待は出来ない。
それならば、やるのは自分しかいない。
等々力を見て、九を見て、番井、真南と視線を移していき、それぞれに対して頷き、京通を運用する為にその最後尾へと向かって足を踏み出そうとした。
そんな自分の脇を通り抜けるように誰かが駆け抜け、京通を駆け上がって一気に最上部へと達し、ぱっくりと開いている口を閉ざすように手で押さえた男がいた。
「あれは…」
名前を思い出せない、道化の男。
何とか2号なんて不名誉な呼ばれ方をしても、ヘラヘラと笑っていた道化の男だ。
「駄目ですよ、山田さん。こういうルール違反をやろうとしてるって分かったから、襟櫛と楽しく遊んでいたのに慌ててこっちに来る事になっちゃったじゃないですか」
「今まで、襟櫛と一緒だったんですか?」
正直、この道化がやって来たという事実より、襟櫛と一緒だったという事の方が自分にとっては重要だった。
「まあ、それは置いといてですね、こういう京通の運用は認められないですね。もしかして、調子に乗っちゃって、王にでもなったつもりですか?」
京通王、そんな称号がある。
京通の運用を数多く任される奴に与えられる称号であり、まあ、現実的には蔑称だ。
この道化が昔は京通王だったのだが、時は移ろい、その座は今や、カズトの元にある。
しかし、カズトは京通王という蔑称が嫌いであり、面と向かって口にすると、あからさまに話を変えようとするので、そんな王になったつもりであるとか口にしてしまう道化には憐れみすらも感じる。
「まあ、そうですねぇ。今はもう、貴方も京通王ではないですよ。差し当たって、貴方に相応しいのは道化王ですかねぇ?」
「山田さん、年上に向かってそういう態度は、ちょっと見過ごせないですね。初代京通王、その力を見せてあげますよ」
そう言って道化はひょいと最上部から飛び降り、それと同時に2つ目の特異性を使った。
流石に意味が分からず、等々力を、九を、番井を、真南を見て、誰の顔にも答えがなくて、そして、道化が京通を振り回し始めた時に、こいつはヤバイ事になったと、ようやく考え始めていた…。