嫌な気分
送迎バスに乗り込んだ俺は目を疑った。
情報屋の男が愉快げに、見知らぬ老人と歓談していたのだ。
そして、俺をチラリと一瞥したにも関わらず、故意に俺を無視したままでバスが駅に着くまで話し込んだ挙句、改札で老人と別れるまで無視され続けた。
「どういうつもりだ?」
開口一番、俺はそう言わざるを得なかった。
「まあ、こっちにも事情がある。君だけが客ってわけじゃない」
すまし顔で言ってのける。
怒鳴りたくなったが、我慢する。
「俺はこの後、人と会う約束があるんだ」
「そいつは残念だ。じゃあ、話は次にしよう」
特に残念そうでもなく、男はそう言って手を振った。
「おい、待て。名前だけでも教えておけよ」
「名札、見なかった?注意力散漫だなぁ」
「どこで会っても、あの名前で呼んで良いって事か?」
「ああ、そういう事か、青岸さんも青岸さんじゃないって意味でか?…うーん、そうだなぁ、カズトでいいや、カズト氏って呼んでくれ」
「俺が何でお前に氏を付けて呼ばなくちゃならないんだよ、カズト」
「重要な事なんだけどなぁ。まあ、いいや。じゃあ、次に会った時によろしく、青岸さん」
完全に足元を見られていた。
つい数時間前、あの時にもっと強気で話すべきだった。
そうしておけば、あんな屈辱を受ける事は無かったのだ。
今日はずっと躓き続けている。
しかも、この後にも確実に躓かせられるのが分かっているから、嫌な気分になる。
だが、それでも、この後の約束をすっぽかすわけにはいかない。
それは、ただの自殺行為だ。
分かっているからこそ、余計に嫌な気分になる。