山田の閃き
「番井と真南も、同行したいとの事だ。山田君、よろしく頼む」
「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」
自分に、九と等々力、番井と真南で、合計5人という大所帯になった。
夥しい数の死体が転がっている3階を歩きながら、深々と溜息を吐き出す。
やがて、自分自身が途中まで運用してしまった京通の成れの果てを見つけ、足を止めた。
「これは、酷いな…」
そう言ったのが九だったから、何となく、自分がやったとは言えずに黙って頷くだけにしておいた。
「これだと、秘密を暴きようもないな」
番井が独特のしゃがれた声で言う。
煙草の吸い過ぎだろうか、完全に喉がやられている。
「番井さんは京通にはどの程度まで関わりを?」
「俺がいた頃はなぁ、こんな大規模な形で京通は運用してなかったなぁ。まぁ、俺がこの階の馬鹿女とやり合って去ってから、こういう合理的な不合理を推し進めやがったんだろうなぁ。どちらかと言えばぁ、真南ぃ、こいつはお前の領分だろぉ?」
話を振られた真南は、少し首を傾げてから口を開いた。
「いえ、自分が始めた頃にはですね、もう、こういう形が出来上がっていましたよ。馬鹿げたシステムです、本当に…」
真南がこんな風に思ってるとは意外だったが、単に番井に気を使っただけなのかもしれない。
真南は下には尊大だが、上には割と丁寧だった記憶があるから。
「とりあえず、残骸では話にならないから、これは処分してしまおう。番井、真南、手伝ってくれ」
「あっ、九さん、それなら、自分がやりますが…」
「いや、山田君は新しい京通を準備してくれ。等々力さんも山田君を手伝ってやって欲しい」
「分かりました」
恐らく、この組み合わせは九が気を使ってくれた結果なのだろう。
自分は番井や真南が苦手だったし、等々力もそれは同じだったであろうから。
九、番井、真南が、自分の運用してしまった出来損ないを処分している様子を遠目に眺めながら、新たな京通を形成していく。
「ここは、これで良いんですかね?」
「あっ、一番上だけは逆にして下さい、そういうルールなんで」
そういえば、これには何かを封じているという可能性があると、カズトは言っていた気がする。
「等々力さん、敢えて逆向きにせず、そのまま積んでみましょう」
封じているとするなら、封じない方が何かを発見できる可能性がある。
天に向かってパックリと口を開けているような、その異様な京通は見ているだけで心を妙にざわつかせる。
「これは、何かが分かるかもしれませんねぇ」
自分の中では珍しく、きっと、他人の中でも珍しいだろうが、自然と笑みが零れていた…。