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青騎士  作者: シャーパー
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カズトの冒険

さっき、あの道化がこちらに干渉してきた時にある程度の確信を得ていたが、服部や佐々木の姿はすでに無かった。


勿論、服部の方はともかく、佐々木は声を聞いただけであり、どんな奴かは分からないので、誰の姿も見えないというだけだったが。


「さてと、俺の考えが正しければ…」


ここは、過去だ。


あの建物があった場所に、昔、こういう施設があったのだろう。


そう、それは特異性を研究し、開発する場所。


どうして、あの扉から、俺や道化だがこの世界に干渉できたのかは分からない。


ただ、出来た以上は俺の情報屋としての血が沸くだけだ。


見知らぬ廊下を漠然と歩く。


一度も来た事がない、そういう場所だ。


何も分からないのだから、とにかく歩き回って観察するしかない。


全体的に沈鬱とした雰囲気が漂っている。


それは、或いは気分のせいなのだろうか。


歩き続けて、幾つかの扉を無視して、俺は行き止まりまでやって来た。


「さあ、鬼が出るか蛇が出るか、どうだろうね…」


行き止まりは扉で、そこには古めかしい南京錠が幾つも幾つも無数に思えるほど、そこを開けられないようにしていた。


自分の手が傷付くように意識して、その南京錠を次々と爪で引っ掻いていく。


当然、俺の『消失』は優秀だから、爪を剥がさずに済むように、南京錠を消していく。


全てを消し去るのに、10分も必要ではなかった。


ただ、数分は必要だった。


それだけの南京錠があった。


この中には、何があるのだろう。


唐突に、扉を思い切り殴る。


俺の『消失』は万能ではなかったから、拳大の穴を扉に穿つだけで、扉自体を消し去ってはくれない。


その穴から、俺は中を覗き込む。


年端もいかない子供達がいた。


どこか見覚えがあるような不思議な感覚に囚われ、俺は少し考えて気付いた。


「こいつら、灰色の世界から出てくる…」


今は、青岸に従っている子供達だ。


ただ、今はと違って、肉体のどこにも欠損は見られない。


「過去、か…、やはり、ここは」


呟いた瞬間、顔の側を通り抜けた警棒が扉を叩く。


鉄扉を叩く音は、だが、『消失』によって消し去られ、俺の聴覚を傷付けない。


振り返ると、警棒を持った巨漢が仁王立ちしていた。


警備員のような服装をしているなと思った後、いや、軍人だろうかと考え直す。


「貴様、どこから侵入した?」


「扉から、だな」


素直に応じたが、相手にはそれが素直な態度に見えなかったようだった。


顔を醜悪に歪ませた事から、それは容易に判断できる。


この表情が俺を傷付けるのだとしたら、俺の『消失』はそれを消し去ってくれるのだろうか。


自分が怯えていないから、その答えは分からない。


「侵入者は殺しても良いという許可は出ている」


「まあ、当たり前だな。こんな厳重にガキ共を閉じ込めておく施設で、侵入者は丁重に扱いなさいって方が奇妙だ。いや、侵入者を丁重に扱うなんて施設は、そもそも存在しないか」


「死ね、生意気な侵入者!」


巨漢が警棒を振り上げ、振り下ろした。


俺は勿論、そんな動作は無視して、全力で顔面を殴ってやる。


警棒は俺に触れられずに消え去り、拳は鼻の下を強かに捉えた。


「ぐっ…」


短く呻いた割には、巨漢は後退りもしなかった。


「特異性を盗んだか、『消失』だな…」


「おいおい、ここはバレるのが早すぎだろうがよ」


ただ、同時に機密性が絶望的に保たれていない施設だとも思った。


巨漢は軍人であっても、その役割はどう考えても警備員を上回るとは思えず、そんな奴にまで研究している特異性の事を知られているようでは目も当てられない。


「これが何か、分かるか?」


分からなかった、俺には巨漢が見せ付けてきた黒い球体の正体がまるで分からなかった。


「まだ、研究途上の代物だが、効果は絶大だぞ。これは、そう、特異性の存在を無かった事に出来る。握り潰す事で発動する」


そう言った上で、黒い球体を握り潰す。


そうして、拳銃を取り出して、銃口を俺の眼前に突き出した。


「泣き喚いて命乞いをしろ。そうすれば、一発で殺してやる」


「嫌だね、お断りだ。何で、自分よりも遥かに程度の低い奴に対して、この俺が許しを乞わなくてはならないんだ。むしろ、お前が許しを乞えよ、この俺に」


「その不遜さを死んで後悔しろ!」


何故か、命乞いをしなかったのに、巨漢は俺を一発で殺そうとして、銃を撃った。


まあ、死んでも構わないと思っていたが、同時に死ぬわけがないとも思っていた。


そして、いつもと変わらぬ日常、銃弾は俺に触れる事すらなく、消え去ってしまう。


「何故だ…?」


当たり前の話だった、俺にとっては。


特異性の存在を無かった事に出来るなんて代物が存在するなら、最強やジョージがあんなに調子に乗れるはずもなく、メアリだってもう少しは上手く組織を制御した事だろう。


ただ、それがそういう結論で理解できたのは、俺がこの巨漢よりも未来に生きているだけであり、自慢できる事では全くない。


しかし、自慢は出来なくても、利用は出来る。


「さあ、こっからはお前が俺に許しを乞う番だ。助けて欲しいか、それとも、死にたいか、選べよ…」


傲岸不遜な態度で、主導権が俺に移ったと誤解させる必要があった。


「助けて下さい、…お願いします」


「分かった。まずは、その銃を寄越せ。話はそれからだ」


躊躇しているようだったが、それでも、逆らう事は出来ないと思ったのか、素直に銃を渡してきた。


ここに至って、ようやく、俺は主導権を握る事が出来た。


そう、あくまでも『消失』は防御特化であり、攻撃手段はさほど多くない。


だから、さっきの時点で、この巨漢が脱兎の如くに逃げ出してしまえば、俺は別に駆けっこが得意なわけではないから、逃げられた可能性は高い。


しかし、この銃はこいつを縛り付ける鎖になる。


勿論、俺が銃を撃てないなんて事をこいつが知っているわけもないだろうから…。

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