策士で青岸
俺の考えた作戦は、ジョージとメアリをぶつける事だった。
一方は無差別、もう一方は俺狙いと、違いは確かにあった。
しかし、俺狙いのメアリにしたところで、周囲にいた子供達を皆殺しにした事でも分かるように、降りかかる可能性のある火の粉は払うわけで、近くにジョージがいれば、戦いは成立するだろう。
元々の実力差から考えて、ジョージがメアリを圧倒する可能性は高いが、狂気と凶気がぶつかる以上、ジョージが無傷で終わるような事にはならないはずだ。
改めて、俺はブッチデヨを見て、ストラを見て、子供達を見て、残酷な決断をする。
俺が、俺だけが生き残れば、それで良いのだ。
こいつらを全て犠牲にして、作戦を実行しよう。
「…大変な事になった」
深刻に、出来るだけ、そういう風に聞こえるように。
ただ、これは演技じゃなくて、ほとんど普通に言ってもそうなってしまう。
当たり前だ、深刻じゃないわけじゃなく、とても深刻なのだから。
「何があったというのだ、青岸よ?」
尊大な口調のブッチデヨに、俺は感謝する。
こいつが口を開かなければ、無言が続いていただろうから。
「実はな、ジョージがもう1つの特異性を使ったんだ」
ストラがギョッとして、周囲を見回した。
まだ、この灰色の世界にジョージがいると言ったわけでもないのに、第六感とかそういう何かで感じるところがあったのだろうか。
「仕方あるまい、奴を切るのだ、それで話は終いだな」
馬鹿な単細胞は流石に相手をするのが楽で助かる。
「まあ、事態はそんなに単純じゃない。ジョージはこの灰色の世界で、今、暴れてるんだ」
「何だと!青岸よ、それは本当か?」
「嘘を言ってどうするんだ、ブッチデヨ」
「ここで、暴れているならば…」
馬鹿で単細胞であるからこそ、ブッチデヨは結論が早い。
そして、この場合、それはとても有り難かった。
「もう、絶望的ではないか!ここで殺されれば、復活は出来ない!終わりだ、全て終わりだ、お終いだ!」
「まあ、待てよ、焦るな。俺に名案があるんだ」
実際、ここの切り返しはおかしいのだ。
深刻に大変な事になったと告げたのに、すでに名案があると言っているのだから。
しかし、馬鹿の単細胞は気付けない。
ストラは失調気味だから、普段は気付けたのかもしれないが、今は駄目そうだ。
子供達は俺を信頼しているから、問題はない。
「名案だと?」
「もう1つの特異性を使ったのは、ジョージだけじゃないんだ」
「何だと!」
「驚く気持ちも分かる。あんなのは何人もが使っていく代物じゃないからな。ただ、事実だ。お前やストラは知っているだろうが、あのメアリが今、この建物の中にいる」
「メアリが使ったっすか…?」
ストラが良いタイミングで発言してくれた。
こういう呆然とした感じを望んでいたのだ。
さて、ここからが詰めの段階だ。
「もう、言わなくても分かると思うが、要するにメアリをこっちに呼び込み、ジョージとぶつけるというのが今回の作戦だ。ジョージは無差別に殺しまくっているが、メアリが優先して狙っているのは俺のようだった。だから、メアリをこの灰色の世界に呼ぶ役目は、この俺がやる。その代わり、ここにいる残りのメンバーには、ジョージをここに連れて来て欲しいんだ」
「おい、青岸よ、それではこちら側だけ、リスクが高過ぎるだろう!」
「いや、そう思うんじゃないかとは考えていたが、実はそうでもないんだ。俺は確かに、外の世界にいるメアリに何度だって殺されてやる事が出来るし、そこのリスクが低い事は否定しない。だが、考えてもみてくれ。メアリの奴が灰色の世界に入って来た時、眼前に狙っている俺がいるわけだから、当然、殺される危険性が高い。それに比べれば、お前達は遠巻きにでも何でも、とにかく、ジョージをここに連れて来れば良いだけだし、全体的に考えれば、単独である俺の方が遥かにリスクは高い」
「なるほど、確かにそうっすね」
ブッチデヨよりは多少マシだが、ストラもそんなに頭は良くない。
だから、安易に俺の弄した言葉で踊る。
「分かった、こちら側の指揮は執ってやろう!その代わり、ジョージをここに連れて来るまでの間に、メアリを必ず誘い込んでおくのだぞ!」
「ああ、任せろ。俺達の連携で、奴らを同時に封殺するぞ」
ブッチデヨがストラと子供達を集め、意気揚々と出発する姿を見送りながら、俺は外の世界に出る事はなく、ただ、特異性を発動させる。
そう、俺の『ビルメン』を…。