山田は出会いを繰り返し
建物の中に入ると、すぐにまた新たな仲間に出会った。
いや、本当は仲間とは限らないが、自分が仲間になってくれるだろうと信じたい男がいたのだ。
「九さん」
「やあ、山田君。君も生きていたか…」
「はい、九さんも無事で何よりです」
九はこの建物でカズトや襟櫛を除けば、最も気に入っている好感の持てる男だった。
まあ、正直、この建物にいる人間はどうしようもない奴が多かったので死んでも当然だという思いすらもあったが、九が生きていたのは望外の喜びだった。
「ところで、山田君と等々力さんは中に入る気なのか?」
「はい、そのつもりです。京通の秘密を暴くつもりです」
信頼している九に、嘘を言いたくなかった。
「京通の、…そうか。一緒に行っても構わないか?」
「手伝って下さるんですか?」
それは些か、卑怯な問い掛けだった。
九は下手な誤魔化しなどをするタイプではなく、直裁的な物の言い方をする。
そこを評価しているのだが、この場合、それを逆手に取って、利用しているとも言える。
「ここまで壊滅的な被害を被った以上、忠誠を尽くしても報われないだろう。そういう答えで、大丈夫か?」
裏切りを、簡単に口に出来るような人間ではない。
それを知っているからこそ、彼がここまで言ってくれた事に感謝したい気持ちだった。
「分かりました、よろしくお願いします」
頭を下げる、それだけの人間だ、仲間になってくれて素直に嬉しかった。
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
体型に似合い鈍重な等々力と、足を悪くしていてびっこを引くように歩く九が一緒では、どうしても速度は遅くなってしまう。
しかし、自分もせかせかと急いで行動するのが得意な方ではなかったし、急がなければならない理由もなかったので、ゆっくりと階段を踏みしめて上って行く。
そして、3階まで来た時点で、また、新たな姿を見つけた。
「あれは、番井と真南だな。どうだ、山田君、彼らを説得できたら、仲間に加えても良いか?」
正直、番井の方はあまり知らなかったし、真南の方もそんなに好印象ではなかった。
ただ、九を落胆させたくなかったので、頷く。
「ありがとう。彼らも昔馴染みだ、話の分からない人間ではないから、大丈夫なはずだ」
そう言って、九がびっこを引きながら、彼らへと近付いて行く。
「大丈夫ですかね?あの2人は、一癖も二癖もありますよ…」
まあ、内部の人間にこんな評され方をする時点で、碌でも無い。
だが、九に任せた以上、もう、嫌とは言えない。
それに、実際、等々力にしたところで、いつ裏切るかもわからないわけで、その辺は心配しても仕方がない事ではあった…。