青岸の絶望と希望
蘇る、そう、俺は灰色の世界で蘇る。
痛みは、もう無い。
ただ、あの時、痛みは確かにあって、とんでもなく痛くて、死ぬほど痛くて、発狂しそうなくらい痛くて、痛くて、痛くて、痛くて、死にそうで、殺されて、痛かった。
「クソッ、メアリの奴!」
もう、アイツ自身にアイツの意識がないのは分かっているが、それでも、簡単に死なせてやる気はなかった。
なぶり殺してやるのだ、こちらにはジョージがいる。
そういえば、ジョージはどうしたのだろうか。
まだ、王子程度の雑魚と遊んでいるのだろうか。
正直、彼はこちらの最大戦力であり、王子などは瞬殺しておいてもらわなければ困るのだが。
とにかく、『ビルメン』を使ってみると、なるほど、王子はすでに頭を潰されて転がっていた。
流石は、ジョージだ。
そして、衝撃的な事ではあったが、あの『最強』までもが死んでいた。
「ジョージ…?いや、斬り殺されているのか…?」
この場で、最強を殺せる可能性のある奴の中で、惨殺できる存在は少ない。
いや、誤魔化すな、そんな奴は1人だけだ。
「まさか、あの襟櫛が…?」
信じられない、何があったのだろうか。
残念ながら、『ビルメン』で分かるのは現在であって、過去ではない。
事態の経過をジョージは知っているだろうか。
そういえば、肝心のジョージはどこに行ったのだろうか。
探ってみると、灰色の世界に彼は帰還していた。
そして、子供達を虐殺していた。
勿論、当たり前の話だが、この灰色の世界で殺されたら、蘇る事は出来ない。
それなのに、ジョージが殺しまくっているのだ。
その理由はすぐに理解できた。
先程、自らが経験したからだ。
「ジョージの馬鹿、アイツまでもう1つの特異性を使ってどうするんだよ!」
俺に忠誠を誓ってくれたのは、嘘だったのだろうか。
世界征服に共感して、一緒に頑張ってくれるのではなかったのか。
「青騎士…?」
子供達の1人が、心配そうに問い掛けてくる。
全員、俺の側においておけば良かったのだ。
そうすれば、戦力をジョージの馬鹿に殺がれる羽目にならなかったのに。
いや、違う、そうじゃない。
問題はそこじゃないのだ。
外の世界には、俺を殺そうとして虎視眈々と待ち受けているメアリがいる。
灰色の世界には、誰彼構わずに皆殺しにしようとしているジョージがいる。
絶望が、俺を襲う。
この事は誰にも知られてはならない。
だが、知られない状況を作ったとしても、事態は一向に解決しない。
溜息を1つ、終わりの始まりか。
元々、大それた望みだったのだ。
世界征服など、俺の器じゃない。
ジョージに全てを委ねる以上、こういう時、破綻した時、覚悟は決めるべきだ。
「おい、青岸よ、戻ったぞ!」
ふてぶてしい態度のブッチデヨと、何故か、悄気返っているストラがいた。
「戻ったか…」
戻った、そう、役立たずのご帰還だ。
そこで、俺はふと考える。
劇薬には劇薬を、そうだ、俺はまだ、負けたわけじゃない…。