交渉
「お前はここの人間じゃないよな?」
「まあ、ね。そうだったとしたら、単独で接触なんてしないし、むしろ、話し掛けるなんて悠長な方法も選ばない」
ここの人間でなく、組織にも関係が無くて、ただ、普通に働いているわけでもないとしたら、それはどういう存在だろうか。
答えは簡単だ。
「報告にあった情報屋というのはお前だな?」
「贔屓にしてもらってたよ、君のお仲間さん達にはさ」
組織に仲間なんていない、それを説明しても仕方がないし、相手も説明なんて望んではいないだろう。
「じゃあ、俺も贔屓にさせてもらうさ。報告には全て目を通したが、正直、分からない事だらけだ。俺だけで全てを把握するのは難しいだろうからな」
「去年までの2年間で合計10名を投入していたのに、今年は君だけなのかい?諦めはしなくても、規模は縮小したってわけだ」
男の顔に失望が浮かんでいた。
まあ、気持ちは分からなくもない。
関わっている数が多ければ多いほど、情報屋なんて商売は儲かるように出来ている。
俺だけを相手にしていても、儲けるようには出来ていない。
すでに、こいつの中では別の場所に行こうかという打算も動き始めているだろう。
「勘違いするなよ、情報屋。組織はだらだらと数を投入しても解決できなかったから、方針転換しただけだ。俺という単独行動のスペシャリストを投入して、結果を出そうとしているんだ」
疑いの目を向けられているのには、苦笑するしかない。
昨年末まで残っていたメンバーには、俺を凌ぐ評価の奴も存在する。
「とりあえず、これだけは確かだ。使える金、予算自体は変わっていない。そして、俺はケチじゃない」
「仕事が終わったら、送迎バスに乗ってくれ。そこで話そう」
「ああ、頼りにしてる」
実利があるとさえ分かれば、活動する事は止めないだろう。
勿論、お互いにとって何の意味もない握手などは交わさなかった。