山田は再び
「地獄絵図、ですねぇ、まさしくねぇ…」
死体が各所に転がっていた。
遠巻きに眺めているだけで動こうとしない警察や機動隊、果ては自衛隊まで来ているのだろうか、彼らは何を思い、何を考え、動こうとせずに眺めているのだろうか。
死体の中に襟櫛の姿がない事を祈りつつ、一人一人、確認していく。
やがて、見覚えのある格好をした死体を見つけ、天を仰いだ。
頭部が無くなっているから、確定は出来ない。
さらに、それ以外も満足に残っているわけではない。
だが、何となく分かってしまうのだ。
親しくしていた者、というのは。
「王子、こんな姿になってねぇ…」
短く黙祷を捧げ、さらに歩みを進めて、王子の死体を見つけた時以上の衝撃を受けた。
「最…強…?」
あの最強が殺されていた。
信じられない思いでいっぱいだった。
彼からは色んな事を教わり、随分と助けられた気がする。
「貴方なら、きっと、安らかに…眠れるんでしょうねぇ」
自分でも笑いたくなるほど、拙い『道式論』だった。
そして、こんな整っていない『道式論』が発動するわけがないなんて、分かってもいた。
それでも、言って良かったんだと思う。
王子の時と同様に、短く黙祷を捧げ、新たな一歩を刻む。
歩いて、歩いて、歩いて、全ての死体を確かめ終わって、フッと息を吐く。
建物の入口を見て、覚悟を決める。
本来ならば、今、ここを逃げても構わないのだ。
でも、逃げない。
この中にはまだ、カズトがいる。
そして、きっと、襟櫛もいるはずだ。
彼が外に出てから、何があったのかは分からない。
ただ、最強や王子と何かがあって、それが終わった後、襟櫛は絶対に逃げたりしないだろう。
建物に戻り、自分やカズトを探すはずだ。
だったら、当然、自分も同じようにする。
カズトがどうなったか、それは外にいた襟櫛には絶対に分からないだろう。
それだけでも、自分が戻る意味はある。
それに、思い出したのだ。
最強を見て、思い出した。
京通、アレの存在を思い出した。
元々、カズトが、最強が、ジョージが、それ以外にも様々な面々が、この現場に入った理由にして、未だに解けていない謎。
京通の事が分かれば、現状を取り巻く問題の何かが解決するのではないだろうか。
「あの、すみません…」
呼びかけられて、そちらに視線を向けると、意外な人物の姿を目にして、少し戸惑う。
守衛だ。
太っている守衛、名前は知らない。
何故か、ボロボロになった服装と、だいぶダメージも負っているようだった。
「建物の中に入られるのですか?」
「ええ、まあ…」
「では、一緒に行ってもよろしいですか?」
「えっ?」
「いや、建物がどうなってしまったか、報告する義務が出るでしょうし、今、この中はとんでもない事になっていますから、戦える人間と一緒なのは心強いです」
自分も、この守衛も、建物の人間であり、お互いに特異性を持っている事は分かっている。
普段は、それを決して口にしないが、もう、そんな事を言っていても仕方が無いのだろう。
「でも、今から、京通の秘密を暴きに行こうと思っているんですけどねぇ」
素直に言わなくても良かったのに、敢えて言った。
守衛は少し考え、頷く。
「それならば、お手伝いが出来ると思います。一緒に行かせて下さい」
味方か、或いは敵になるか、分からない。
ただ、糸口になる、そんな気がした。
「山田です、よろしく」
「等々力です、よろしくお願いします」
「行きますか」
等々力が大きく頷いた。
そして、彼を従える形で、再び、建物へと戻る…。