カズトの嬉しい再会
暫くずっと、俺は扉を見ていた。
ここを開ければ、また、さっきみたいな別の場所に行ってしまうのだろうか。
それとも、元の建物の地下に出るのだろうか。
どうすれば良いのか、それは分かっている。
1階まで戻り、山田を探す。
それが、正解だ。
そう、正解は分かっているのだが、俺はまだ、扉の前で愚図愚図としている。
この扉を出た先、俺の知らないあの場所には、俺の知らない奴らがいて、どうやら、奴らの話し振りからすると、特異性の研究をしているようだった。
いや、研究というよりは、開発だろうか。
1つの仮説が、俺の頭にはあった。
さっきの場所は、この建物の過去なのではないだろうか。
そして、そこで特異性が開発され、何らかの事情によって、全国各地に特異性がバラ撒かれてしまった。
つまり、この扉の向こうでそれを探ってみれば、特異性に関する全てが分かる、そんな気がしていた。
「情報屋として、見逃せないよな…」
ずっと迷って、ずっと考えて、その上での結論だ、後悔はしない、どうなったとしても。
それでも、扉のノブに伸ばす手はゆっくりと遅く、迷いが残っているのだろうか。
だが、それを振り払うように首を振った時、扉の先で誰かが走って来る足音が聞こえてきた。
身構える暇もなく、扉が開いて誰かが飛び込んで来た。
勿論、本来なら、『消失』が発動し、ぶつかって来た奴は消えてしまうはずだったのだが、そのままぶつかって押し倒されてしまった。
足元で、扉の閉まる音がする。
「カズト氏…」
「襟櫛…?」
あまりにも予想外で、意味が分からなかった。
この扉の先は、俺の知っている建物ではないはずなのに、その先からやって来た襟櫛はどういう存在なのだろうか。
後ろで扉の開く音がして、襟櫛が弾かれたようにそちらを見やった。
俺も少し頭を上げ、扉を見てみたが、今度は閉まったままだった。
順番なのだろうか。
「あれ?襟櫛、どこですか?どこに行きましたか?おかしいな…、確かにここに入ったはずなのに、いない…。っていうか、ここはどこですか?何ですか、この場所は?」
聞き覚えのある声だった。
名前は何と言ったか、何とか2号なんて呼ばれ方をしている道化だ。
「さてと、また奇妙な事になったな…」
「そうですね」
襟櫛が立ち上がり、倒れている俺に手を差し出してくれる。
彼の笑顔を見ていると、少しホッとする。
「襟櫛、扉の外にいる奴に追っ掛けられてたのか?」
「ええ、まあ…、そうですね」
ちょっと不愉快な様子を見せたのは、襟櫛があの道化をそんなに評価していないからだろう。
勿論、それは俺も同じで、今の襟櫛の格好、つまり、特異性を発動している状態の彼を、あの道化如きが追い掛け回せるとはとても思えなかった…。