大胆不敵に青岸
ジョージを送り出した後、俺は暇を感じていた。
正直、ジョージは勿論だが、ブッチデヨやストラすらもいない状況では、この建物の外に飛び出して世界征服を始めるというわけにもいかず、悶々と彼らの帰りを待っておかなければならなかった。
子供達を半数ほど、ジョージの方に回しているが、残り半数と俺で何が出来るだろうかと考えてみる。
ジョージの邪魔はしたくない、ブッチデヨやストラの方も関わりたくない、そうだとすれば。
「襟櫛かカズトを始末しておきたいか…」
どちらも強敵ではあるが、今、この瞬間に出来る事はそれくらいだ。
まあ、仮に失敗したとしても、暇を潰せたと考えれば良いだろう。
子供達を引き連れて、適当に歩き回る。
やがて、俺は不思議な戦いに遭遇した。
何故か、理由は全く分からないが、カズトが組織のメアリと戦っていたのだ。
メアリと手を組めば、あのカズトをも殺せるかもしれない。
ただ、この建物内にメアリがいる事を考えれば、彼女の狙いは俺である可能性が高い。
つまり、俺を殺そうとしている奴と手を組めるわけがないから、今、ここに俺が介入すれば、三竦みという状態を作り出してしまう事になる。
迂闊に手を出して面倒な事になっても嫌だったので、俺は暫く様子を見てみる事にした。
その内、奇妙な事に気付く。
あのカズトが妙に追い込まれているのだ。
どうやら、防御が間に合っていないみたいだが、あの防御特化の特異性を持つカズトにしては、違和感がある。
そして、理解する。
特異性が発動するよりも速く攻撃を繰り出せれば、カズトは容易に殺せる。
それに気付いた時、俺は自然と笑ってしまっていた。
これは面白い、あまりにも愉快だ。
「敵が敵同士、勝手に潰し合ってくれるというのは、本来なら傍観しておいた方が得ではあるんだろうが、ちょっと退屈してるんだ。俺の相手をして、死んでくれないか?」
思わず、そう言っていた。
三竦み、大歓迎だ。
元々、メアリはそんなに難敵だとは思っていなかった。
今はその上、カズトの弱点まで分かったのだ。
「誰よ、出て来なさい!」
「招待されたなら、仕方が無いな」
わざとらしく、メアリのせいにしてやる事で、キレやすい彼女を冷静でいられなくしてやった。
子供達と一緒に、灰色の中から外の世界に出る。
「青岸!」
「青岸…」
キレているメアリはキレたままで、カズトは落胆したような感じだった。
「メアリ、お前には感謝している。どうやっても、俺はカズトだけは手に余ると思っていたんだが、お前のお陰でこいつの弱点が見えた」
メアリは理解できていないようだったが、カズトは明らかに苦々しい表情を浮かべていて滑稽だった。
「情報屋…」
「何だ?」
「一時、勝負はお預けよ。私はこの裏切り者を殺す為に、この建物に入ったの。だから、ちょっと我慢して待ってなさい」
「悪いが、お断りだ。俺も弱点を知られちまった以上、青岸を殺さなくてはならない。お前みたいな不確かな奴に、こいつを譲って逃げられでもしたら大変だ。こいつは俺が殺す、それは決定事項だ」
「そう…、勝手になさいな。私は私で、勝手に青岸を殺す」
「お、おい、お前達は敵同士だろうが!俺を殺すって事で意見を合わせんなよ!」
驚くべき展開だった。
三竦みは確かに大歓迎だが、俺の方が2人から攻められる展開なんて予想だにしていなかった。
「じゃあ、競争だな。青岸を殺すのは俺だから、譲る気はない」
「望むところね。私が青岸を殺す、絶対に、何が何でも、譲らない」
「片手片足を失ったババァと、弱点を見せちまった雑魚キャラが…」
こいつら如きに、調子に乗られるのはウンザリだった。
どちらにしても、こいつらは両方とも殺す予定だったのだ。
それならば、まとめて強者である俺に挑めば良い。
こちらには怯む要素なんて欠片も存在しないのだから…。