カズトの疑念
「何だ、ここ…？」
俺は扉の先にあった扉を開け、その先に広がっていた光景に息を飲む。
後ろから続いていた山田が、俺の横から顔を覗かせて、同じようにその光景に驚きを隠せないようだった。
「何か、秘密基地みたいですねぇ」
稚拙な感想だったが、まさに俺も同じ事を考えていた。
これは、そう、秘密基地だ。
秘密のアジトか。
何にしろ、尋常に使われる代物ではないだろう。
ずっと働いていて、情報屋なんてやっている俺が、これを知らなかったのは恥だ。
メアリに役立たずの情報屋なんて呼ばれたが、それもお似合いだろう。
「とにかく、入ってみますかねぇ」
「いや、迂闊に侵入して、何かがあってからでは遅いだろ」
「でも、ですねぇ、この建物にはもう、ほとんど、生存者はいないわけですし、誰に咎められるってものでもないでしょう」
「まあ、それはそうだが…」
本当に大丈夫なのだろうか。
侵入を感知するシステムが働き、自動的に侵入した者を排除するような何かが起こらないなんて、誰に言えるのだろうか。
そんな、まさに秘密基地に相応しい事は恥ずかしくて言えなかった。
とりあえず、戻るよりはマシだろうという気持ちで入ってみる。
警報が鳴ったりはしなかったが、油断は出来ない。
「あっ、カズト氏、こっちに階段がありますよ」
警戒する俺に対し、警戒しない山田は無遠慮に物色していた。
まあ、一蓮托生だと思い、俺も山田の方に向かう。
そして、彼が見つけた階段を見て、上を見て、下を見て、呟く。
「これって、まあ、上は各階の扉だとして、下に行ったら、外に出られるかな？」
「あの扉が非常口なのだとしたら、外に出られるんでしょうなぁ」
ここから見ただけでは、角度的に１階がどうなっているのかは良く分からなかった。
「まあ、とりあえず、下りてみますか？」
「ああ…」
積極的な山田に比べて、俺は妙に及び腰になっていた。
ただ、応じてしまった以上、仕方なく、俺は前に立って階段を下りてみる。
そして、１階部分と思われる場所に立ち、俺は困惑した。
勿論、山田も同じだろう。
「出口が…」
「無いですねぇ…」
階段はあっても、出口がない。
表にも階段があるわけだから、ここはそうだとしたら、何の為に作られたスペースなのだろうか。
「地下まで下りてみますかねぇ？」
「地下って、何で？」
「いや、そっちに出口があるかもしれませんよ」
「あるかなぁ…」
半信半疑ながら、ここまで来て上に戻っても仕方がないので下りてみる事にした…。
