眼鏡の話
「新人の青岸さん、初めまして」
昼食休憩後、接触はすぐにあった。
「お前は?」
「おやおや、失礼な人だなぁ。いきなり、お前なんて呼び方しちゃうなんてさ」
「お喋りする気分じゃないんだ、仕事中だしな」
俺は午前中に1階で台車へと積んだ荷物を6階に運んでいた。
そのエレベータに乗り合わせたのが、こいつだ。
長身で短髪、眼鏡を掛けている。
そういえば、ここは力仕事の割には眼鏡を掛けている奴がやたらと多い。
オシやカラもそうだし、食堂でも男の半分以上が眼鏡だった。
俺も眼鏡を掛けているが、それは相手に表情を読まれ難くする為で、レンズに少し色を入れているが、こいつのはそういうのじゃなくて純粋に視力が低いんだろうと思われた。
「ふーん、そっか。じゃ、こっからは独り言ね」
エレベータが6階に着く、荷物を乗せた台車を転がし出しながら、俺は男の話を聞く。
「君の組織さ、去年の内にメンバーを全て引き上げさせたじゃん。てっきり、俺はここを諦めたんじゃないかって思ったんだけどね」
「組織は狙った獲物を諦める事なんて無い」
「あ、喋る気になった?」
「仕事を手伝ってくれるなら、その間くらいは」
「俺も暇じゃないんだけどな。ま、新人の手助けをしてやるのは、先輩の仕事って解釈も出来るか」
男は人の悪い笑いを浮かべ、エレベータに残っている荷物を次々と外に放り出していった。