終焉の最強
ジョージが吹っ飛んでいた。
そして、両腕を失った最強が、自分の前に立っていた。
「クソ…」
その言葉を聞いた時、自分がどれほど取り返しが付かない事をやってしまったのか、ようやく理解した。
その時だった、灰色から出現した子供達がジョージに群がる。
「襟櫛、ジョージを殺せ、逃げられるぞ!」
そう言われて、そう言われなければ分からなくて、そうして、俺は起き上がり、駆ける、刀は砕けたまま。
俺を邪魔するように子供達が群がってきて、それを弾き飛ばしながら、ジョージに向かって振り下ろした刀は空を斬っていた。
逃げられた。
恐る恐る、後ろを振り返る。
最強を、見る。
その両眼にはもう、まともな光はなく、それが妙に寂しくて、泣きそうになる。
「なあ、襟櫛、頼みがあるんだ…」
「…嫌です」
聞きたくなかった、聞きたくなんて無かった、何を言われるのか、容易に想像できるから、聞きたくなかった。
「俺を、殺してくれ…」
「…嫌です」
「俺は、もう、何も、出来ない…」
確かに、もう、最強は何も出来ない。
いや、実際、最強は両手を使わず、戦える事は知っている。
だが、それは両手を使わないのであって、使えないから使わないというわけではない。
そこには、大きな溝が隔たりを覗かせている。
「襟櫛、頼むよ、…俺を殺してくれ。俺は、こんな状態で、かつての最強を名乗りながら、生きていたくないんだ…」
縋るような、甘えるような、決して今まで、最強の口から聞いた事のない響きだった。
二振りの刀を捨てる。
切っ先が砕けたような刀では、出来ない。
最強が最後に拠り所としていた左腕を失ったのは、きっと、彼は絶対に認めないだろうが、俺のせいだ。
あの時、最強が非情ならば、俺を犠牲にして、ジョージを殺しただろう。
それなのに、彼は俺を守ってくれた。
咄嗟の場面でそれを選んでくれた最強に対し、俺が出来る事は唯一にして無二。
特異性を解除し、戦装束を纏い直す。
そして、二振りの新たな日本刀を両手に握り、しっかりと握り、最強を見据える。
「悪いな、襟櫛…」
首を振る、悪かったのは自分だ。
守ってもらった上に、ジョージを殺せなかった。
「さよなら、俺の…最強」
俺は、最強を、殺した。
結局、彼を越えられないまま、俺はずっと彼を越えられないまま、彼の背中を追いかけ続けて、その幻にずっと追いつけなくて、そうやって、朽ち果て、潰えるのだろう。
でも、それで良かった。
俺は最強を殺したが、最強に勝てなかった。
それで、良かった…。