合流する山田
カズトはまだ、ブッチデヨに手こずっているようだった。
まあ、1階での戦闘を思い出す限り、ブッチデヨはその言動や体格に似合わず、意外に頭が切れるから、カズトが苦戦するのも分からなくはない。
そんな事を思いながら、彼に近寄ってみると、案外、普通な調子で声を掛けられてしまう。
「おぉ、山田氏。無事だったみたいだな?」
「何だと!山田、ストラはどうした?」
「どうしたと言われても、放置しているだけですけどねぇ。ほら、あそこに」
何やら、心配されているのはこちらだったようで、カズトの余裕を感じながらもブッチデヨの質問に答えてストラを指差してやる。
「何をやっておるのだ、奴は!」
「さあ、何をやっているんでしょうねぇ?仲間として、声を掛けてやったらどうですか?」
まともに教えてやる気も無かったし、単純馬鹿のブッチデヨを利用して、当初の予定通り、ストラをさらに足止めしておく。
「言われなくてもそうする!カズト、山田、決着はまた次の機会に持ち越すぞ!」
「俺は成り行き上で戦っただけだから、お前との決着なんて興味ないんだけどな」
「同じく、ですねぇ。争いなんて、起こらないに越した事は無いですからねぇ」
「どちらも、覚悟しておけ!いずれ、わしが鉄槌を下してやるからな!」
ストラと同様、灰色の世界に逃げ込んでは復活してしまうブッチデヨを殺せるわけもなく、本気でもう戦いたくないと思ったのだが、こちらの思惑とはまるで無関係に再戦を挑まれそうな感じだった。
まあ、兎にも角にも、こちらの作戦には乗ってくれたブッチデヨがストラの元に行って、彼を頑なにさせているのを見ると、少し愉快な気分にはなる。
「アレって、どういう状況なの、山田氏?」
「実は、ですねぇ…」
少し得意気に話してしまうが、妙に関心した様子のカズトを見て、満更でもない気分になる。
「それで、山田氏、襟櫛は?」
「外に、王子を迎えに行ったきり、戻らないんですよねぇ。青岸にでも遭遇したんですかねぇ」
実際のところ、本当に襟櫛はどうしたのだろうか。
王子と再会し、ただ戻って来るだけならば、自分が1階にいる間に会えそうな気もするのだが、そうはならなかった。
「いや、それはない。実はさ、俺は…」
メアリとの戦い、青岸の介入、メアリが2つ目の特異性を使った事などを聞き、さらに考えは行き詰まってしまう。
「なるほど、ねぇ。だとすれば、外に行ってみなければ、分からないという事ですねぇ」
「ただ、説明した通り、1階ではメアリが待機してるだろうから、そこ以外を通らないと」
「地下も、頭上にメアリがいると考えたら、あまり宜しくないですねぇ」
この階は当然、前方に動けなくなったストラと、動かそうとしているブッチデヨがいて、無理だった。
「外に行くのに、上に行くってのも微妙だしなぁ。それに、上は上で、どんな風になってるか…」
「まあ、死体だらけではありますねぇ」
しかし、死体だらけであったとしても、そこ以外に道はないのだし、仕方がない気もする。
その考えを告げようとした時、機先を制するようにカズトが言う。
「なあ、この扉の向こうって、外に繋がってないかな?」
「ああ、非常口ですねぇ…。可能性はありますか」
非常口なのだから、当然、外に通じているのだろう。
何故、その事に自分は気付かなかったのだろうか。
当たり前すぎて、逆に盲点だったのか。
「じゃ、行ってみるかな」
カズトが扉を開けた先には、人が1人、やっと通れるくらいの狭く短い通路があり、すぐにまた、扉がある。
「アレって、開けたら外なのかな?」
「そんな危険な作りの建物はないでしょうねぇ。まあ、非常階段とか、そういうのに通じているんでしょうねぇ」
「まあ、そっか。じゃあ、それを使って、外に行くか」
「そうですねぇ」
前を行くカズトの背中を見ながら、ふと、言い得ぬ不安を覚えた。
本当に、あの扉はただの非常口だったのだろうか。
そして、この通路は、その奥にある扉は…。