合流するカズト
「なあ、いい加減、諦めたらどうだ?」
俺は正直、このどうしようもない馬鹿の相手をし続ける事に疲れていた。
そう、馬鹿とは勿論、ブッチデヨの事だ。
「このわしに敗北など、許されてはおらんのだ!」
「いや、まあ、敗北を許すのはお前自身であって、敗北なんて他の誰かに許しを請うものでもないと思うけどな」
「ふむ、一理あるか…」
何故なのか、馬鹿だからか、ブッチデヨが納得しかけたところで、俺は歩いてくる山田を見つけてホッと胸を撫で下ろす。
「おぉ、山田氏。無事だったみたいだな?」
「何だと!山田、ストラはどうした?」
「どうしたと言われても、放置しているだけですけどねぇ。ほら、あそこに」
山田が指差す先で、水を纏ったストラがジッと身構えていた。
「何をやっておるのだ、奴は!」
「さあ、何をやっているんでしょうねぇ?仲間として、声を掛けてやったらどうですか?」
「言われなくてもそうする!カズト、山田、決着はまた次の機会に持ち越すぞ!」
「俺は成り行き上で戦っただけだから、お前との決着なんて興味ないんだけどな」
「同じく、ですねぇ。争いなんて、起こらないに越した事は無いですからねぇ」
「どちらも、覚悟しておけ!いずれ、わしが鉄槌を下してやるからな!」
こちらの話をまるで聞こうともしないブッチデヨは、騒々しく立ち去ってしまう。
その後ろ姿は、ストラの前で止まり、何やら苦戦しているようだった。
「アレって、どういう状況なの、山田氏?」
「実は、ですねぇ…」
山田の説明を聞いて、俺は上手い方法もあったものだと感心する。
まあ、俺の存在が山田の作戦に一役買ってるというのも、なかなか良い事だった。
「それで、山田氏、襟櫛は?」
「外に、王子を迎えに行ったきり、戻らないんですよねぇ。青岸にでも遭遇したんですかねぇ」
そう言われて、俺はメアリと青岸の事を思い出した。
「いや、それはない。実はさ、俺は…」
メアリとの戦い、青岸の介入、メアリが2つ目の特異性を使った事などを、掻い摘んで説明してしまう。
「なるほど、ねぇ。だとすれば、外に行ってみなければ、分からないという事ですねぇ」
「ただ、説明した通り、1階ではメアリが待機してるだろうから、そこ以外を通らないと」
「地下も、頭上にメアリがいると考えたら、あまり宜しくないですねぇ」
この階は当然、前方に動けなくなったストラと、動かそうとしているブッチデヨがいて、無理だった。
「外に行くのに、上に行くってのも微妙だしなぁ。それに、上は上で、どんな風になってるか…」
「まあ、死体だらけではありますねぇ」
俺は周囲を見回し、何か突破口はないだろうかと考える。
そして、奇妙な物を見つけた。
「なあ、この扉の向こうって、外に繋がってないかな?」
「ああ、非常口ですねぇ…。可能性はありますか」
「じゃ、行ってみるかな」
俺はそう言って、扉を開けて違和感を覚える。
人が1人、やっと通れるくらいの狭く短い通路の先に、また、扉がある。
「アレって、開けたら外なのかな?」
「そんな危険な作りの建物はないでしょうねぇ。まあ、非常階段とか、そういうのに通じているんでしょうねぇ」
「まあ、そっか。じゃあ、それを使って、外に行くか」
「そうですねぇ」
俺が先に立ち、山田が続いてくる。
何となく、扉の先に非常階段なんて代物はないような気がしていた…。