最強の終わり
襟櫛の狙いは悪くない。
いや、実際のところ、俺の要求に従うには、アレ以外の方法はなかっただろう。
無限にも思えるほどの突きをジョージの鳩尾に入れ続ける。
最初はまるで、無関心、そして、自分の力を溜める事のみに集中していたジョージが、やがて、襟櫛を見始めた。
ただ、それは残念ながら、隙ではない。
あまりにもわざとらしい罠。
姑息ではなかったはずの奴が、どうにも姑息な事をするものだ。
残念ながら、隙を作り出すという事は想像以上に難しいようだった。
だが、これが俺と襟櫛の立場が逆で、俺が隙を作り出すだけで構わないのならば、幾らでもやってやると思うのだ。
だからこそ、襟櫛には隙を作るくらい、実行してもらわなければ困る。
ジョージを殺した後で、俺は襟櫛と戦い、満足感を得たいのだから。
そんな事を思っていたら、唐突に襟櫛の刀の切っ先が砕けた。
それも、二振り同時に。
一度、撤退するか、恐らくはそんな事を考えながら放ったであろう突きは、見事に襟櫛の体勢を崩してしまう。
その瞬間、確かにジョージが笑った。
そう、隙を作った、愚かにも自ら。
襟櫛が撤退しようとして慌て尻餅をつく、同時にジョージが両手を組んで襟櫛の頭を潰そうと構える。
まだ、隙は生じたままだ。
駆ける、側面に回って、奴の頭を掴んで吹っ飛ばしてやる。
奴は襟櫛の頭を潰し、俺は奴の頭を吹っ飛ばす。
そういう流れだ、頭の中でも、冷静に計算できていた。
だが、それなのに、俺は何故か、正面から奴の首を掴んでいた。
当然、奴は俺の左腕に攻撃を振り下ろす。
分かっていた、それなのに俺はそうしてしまった。
分からない、何故、そうしてしまったのか。
だが、そうしてしまった以上、俺がやるべき事は1つだけ、たった1つだけだ。
左腕に衝撃が走る、『破天荒快男児』、そう、俺の左腕は死んだ。
しかし、同時に俺の左手は、あまりにも優秀な左手は、俺との繋がりを失い、それでも、尚、俺が描き出した衝撃波を放つ。
いや、実際は半減している。
冷静に考えると、殺せたはずの一撃でジョージが瀕死であるという事実が、それを証明していた。
「クソ…」
呟くと同時、ジョージに子供達が群がる。
「襟櫛、ジョージを殺せ、逃げられるぞ!」
起き上がり、駆ける、刀は砕けたまま。
子供達が群がり、それを弾き飛ばしながら、刀は空を斬っていた。
逃げられた。
それを理解した時、俺は急速に覚めていくのを感じた…。