砕け崩れる襟櫛
ふーっ、と大きく息を吐いた。
ジョージが何らかの準備を始めるように力を溜め出している時点で、あまり時間は掛けられない。
だが、今まで、俺が繰り出してきた攻撃は全て、無意味で徒労だった。
ここで、最強の要請に従い、ジョージに一瞬の隙を生み出させるにはどうしたら良いだろうか。
王子を助けようとした時、全力でジョージの腕を落とそうとして失敗した。
当たり前だ、元々、俺は速度特化で、ジョージは攻撃力やタフさを売りにしていた。
俺の全力なんて、蚊が刺した程度ですらも無かっただろう。
さっきまで、俺は闇雲に滅多矢鱈、ジョージを斬り刻んでやろうとして失敗した。
当たり前だ、元々、俺の一撃一撃が非力なのだから、それを全身隈なく浴びせられようとも、ジョージにとっては無意味なのだ。
「だったら…」
結論は単純で、明快。
一点突破だ。
同じ箇所を何度も突く、無数に、いや、無限に。
ジョージに届くまで、そう、奴が一瞬の隙を生じさせるまで。
狙うべきは鳩尾、俺はジョージよりも少し背が低いから、ここが俺にとって最も狙いやすく、同時に奴の中心でもある。
1、2、3、4…、と突いていき、途中から自分でも数えられないくらい速く、速く、速く、速く、ただ、速く。
正確に一点、同じ箇所を突き続ける。
まるで、自分がそういう機械にでもなってしまったかのように、ただただ、突き続ける、突き詰めていく。
どれくらいの時が経っただろうか、まだ数十秒か、もう数分か、数十分では流石にないだろうが、ジョージがギョロッとした眼で俺を見ているのに気付いた。
これは隙ではなく、別の何かなのだろう。
最強が動かないので、そう思う。
よって、俺に与えられた選択肢は引き続き、突き続ける事だけだ。
突いて、突いて、突きまくる。
だが、限界が来た。
自分ではない、ジョージでもない、刀の切っ先が砕けたのだ。
二振り、ほぼ同時に。
新しい刀を出す為には、一度、特異性を解除しなければならない。
こいつの前で、流石に冗談ではない。
危険かどうかではなく、確実に死ぬ、間違いなく死ぬ、絶対に死ぬ。
しかし、一度、距離を置き、新しい刀を出して、また、同じ事を繰り返したとして、果たして隙を作り出すなんて事が出来るのだろうか。
迷いが逡巡を生み、さらに切っ先が砕けた刀で繰り出した突きは、無様に俺の体勢を崩してしまう。
その瞬間だった、確かにジョージが笑った。
咄嗟に退こうとして、迂闊にも右足と左足が当たり、崩れていた体勢に追撃を加えて尻餅をついてしまう。
両手を組み、頭の上から、そいつを振り下ろす。
その時、一陣の風。
最強の左手がジョージの首を掴み、だが、直線上にあった最強の左腕は『破天荒快男児』によって見事に弾け飛ばされ、それでも、残った左手は凄まじい衝撃波を抑えきれずに放出していた…。