勇気を出した青岸
俺は子供達に指示を出した後、単独行動をしていた。
とにかく、今は戦力が欲しかった。
ブッチデヨとストラだけでは、本当にどうしようもない。
山田、襟櫛、カズト。
あの3人を相手にして、誰すらも始末できそうにない。
そして、よりにもよって、始末できそうにない3人が、揃いも揃ってこの場所に存在するのだから、どうにかしなければならないのだ。
「でもなぁ、実際、どうすれば良いんだ…」
俺は歩き回っては、時々、灰色から外の世界に顔を覗かせた。
何か、発見をしたかった。
そうして、暫くした後だった、俺はあまりにも唐突な発見をしてしまった。
あの『最強』とあの『破天荒快男児』ジョージが、戦っていたのだ。
「おいおい、冗談だろ…?」
それは、組織に所属していた奴ならば、誰しもが一度は想像した事があるであろう最高の対戦カードだった。
思わず、手に汗を握る。
どちらにも、相応に嫌いな部分があったから、別にどちらが優勢であったとしても、どちらが勝ったとしても構わなかった。
本当にもう、ただの観客となってしまっていた。
まあ、思ったよりも事態は長期化せず、意外にアッサリと決着はついてしまった。
そう、結局、『最強』は最強であり、ジョージはあくまでもナンバー2だった。
それでも、ジョージは『最強』の右腕を奪い、一応の実力は示した。
そうだ、実力は示したのだ。
『最強』は何故か分からないが、ジョージを殺さずに立ち去ってしまった。
まあ、放置しておけば、野垂れ死ぬ状態ではあったし、興味が無くなっただけなのだろう。
「ジョージ、なら…」
戦力だ。
ジョージが俺の下になれば、戦力は一気に倍増する。
子供達も、ブッチデヨやストラも、ジョージに比べれば、烏合の衆に等しい。
ジョージが欲しい、ジョージを手に入れたい。
「よぉ、ジョージ」
正直、恐る恐るといった感じは消せなかったと思う。
それだけ、俺にとってのジョージとは、大きな存在だった。
「死にそうだな、おい」
ジョージが笑ったような気がした。
もしかしたら、声が震えてしまっているのかもしれない。
「なぁ、ジョージよ、このまま死んじまって悔しくないか?」
俺の部下になってくれ。
そう言いたかったが、やはり、迷う。
あのジョージが、俺になんて従うのだろうか。
だが、今、ここで何もしなかったら、俺は、俺の野望は潰えるだろう。
だから、勇気を出して。
「俺に従うならさ、助けてやってもいいぜ」
ジョージと視線を合わせていると、もう、虫の息であるにも関わらず、自分があまりにも大それた無謀な事をやっているように思えて、俺は臆病になりかける。
それでも、再び、勇気を奮い起こして。
「このままで終わっちまいたいなら、俺はここから去る。でもなぁ、俺に従ってでも生き残りたいって思うんならさ、目を閉じて見せな。それが合図だ、どうするよ?」
ジョージがゆっくりと目を閉じた。
俺はそれを見て、泣きそうになってしまう。
あのジョージが、あの『破天荒快男児』ジョージが、この俺に従うと、そう約足してくれたのだ。
歓喜と共に、俺は灰色の中にジョージを連れ込む。
俺の野望は今、まさにこの瞬間、新たなステージへと入った…。