最強は心で笑い
別に構わなかったが、俺の放った衝撃波はジョージに対して何らの意味もなかった。
確かに奴は吹っ飛んだが、明らかに効いていない。
愚者のくせに、生意気にもこちらをハメようと、微動だにセず、待ち構えている。
俺は当然、そして、襟櫛も動かない。
二人して、ジッと見ていた。
やがて、ジョージが立ち上がる。
壊れた機械のようなぎこちなさで、明らかに無傷。
「道化が…」
呟くと同時、襟櫛が動いていた。
ジョージの背後に回り込んだ彼は、神速の動きで二振りの日本刀で首を落とそうとする。
だが、弾かれてしまう。
俺は直接、ジョージに触れていなかったから、原理は分からない。
分からないが、何らかの跳ね返りがあるのだろう。
襟櫛は少し距離を開けたが、足りない。
「足りない、が…」
ジョージが一気に距離を詰めたが、その倍以上の速度で襟櫛がさらに距離を開けた。
正直、単純な速度だけで言えば、襟櫛を凌ぐ奴は稀だ。
少なくとも、この場にはいない。
速度では絶対に削られない襟櫛、絶対的な攻撃力を持つ俺、秘策を使った愚者ジョージ。
嫌な拮抗だ。
その中の1人、愚者が動く。
両足を踏ん張って腰を落とし、まるで力を蓄めるかのような体勢をとっている。
まず、ジョージ自身が震え出し、次に大地が鳴動し始め、空気が揺らぎ出し、挙句に砕かれた地面が彼の周囲に浮かび始めた。
アレは、危険だ。
放置しておいても、碌な事にならない。
だから、動く。
呼応したように襟櫛も動いたが、まあ、ここで動かないような奴ならば、そもそも見込みが無い。
俺よりも速度に勝る襟櫛がジョージを切り刻もうとするが、傷一つすらも付けられずにいた。
接近した俺も、流石にこのままではどうにもならず、仕方なく言う。
「襟櫛…」
「はい」
「誰かに勝てないと思った事はあるか?」
考えずに言ってしまったので、深い意味はなかった。
「2人でも?」
その提案に、俺は内心で笑う。
この愛弟子と俺で、久し振りに、共に戦う。
まあ、悪くない。
「一瞬で構わない、隙を作れ。それで、俺が殺る」
襟櫛が頷き、二振りの日本刀を構えた。
ここからは、彼の本領だ。
見ていればいい、用意しておけばいい。
たったの一撃、全てを込めた最強の一撃、そいつを用意して…。