襟櫛の覚悟
結果的に、最強の放った衝撃波は予想以上に効いたかのように思えた。
ジョージは見事に吹っ飛んでいたし、暫くは起き上がる事すらも出来ないようだった。
今、この瞬間こそ、動くべき時なのかもしれない。
そう思いながら、だが、俺は動けなかった。
同様に、最強も動かなかった。
2人で、ジッと見ていた。
やがて、ぎこちなく、壊れかけの機械みたいな動作で、ジョージが立ち上がる。
一見すると、無傷。
しかし、そんなわけがない。
その判断を下した瞬間に、俺は動いていた。
全速力でジョージの背後に回りこみ、二振りの日本刀でうなじを薙ぐ。
だが、またしても、同じだ。
凄まじい振動が俺の両手を伝い、何も出来ないままに離れざるを得ない。
軋むようなぎこちなさで、ジョージが振り返る。
俺と視線が合い、実際は視線を合わせていないと理解した時、その拳が眼前に達していた。
「速い、が…」
遅い。
王子を始末するには充分だったであろうジョージの速度も、俺を殺すには不足している。
さっきの倍以上も距離を開け、俺は慎重に様子を窺う。
最強の方を見やるが、彼もジョージを見たままで動かない。
そして、当のジョージは俺を仕留め損なった事を意に介したようにも見えず、両足を踏ん張って腰を落とし、まるで力を蓄めるかのような体勢をとっている。
まず、ジョージ自身が震え出し、次に大地が鳴動し始め、空気が揺らぎ出し、挙句に砕かれた地面が彼の周囲に浮かび始めた。
「おいおい、漫画じゃないんだぞ…」
その時、恐らく、狙っていた好機とはまるで別のタイミングであっただろうにも関わらず、最強が動いた。
そして、それに俺も反応する。
このまま、放置しておけば、碌な事にはならない。
それが、最強の認識であり、俺も共有したものだった。
最強よりも先にジョージの間合いに入り、二振りの日本刀を振るって縦横無尽に切り刻む。
しかし、今度は振動すらも感じず、何か、固い壁に阻まれているかのように、その身に傷の1つすらも付けられない。
正直、こいつは駄目だ。
規格外すぎる。
ようやく到着した最強も、俺の無様な姿を見て、すぐには攻撃を仕掛けられずにいた。
「襟櫛…」
「はい」
「誰かに勝てないと思った事はあるか?」
それは、最強が口にしてはいけない言葉だった。
そして、それをこのジョージを眼前にした状態で口にしてしまうほど、今の状況はとんでもなく最悪だった。
「2人でも?」
自然と口をついていた。
俺と最強、その師弟コンビですらも勝てないだろうか。
「一瞬で構わない、隙を作れ。それで、俺が殺る」
俺は頷き、構える。
無理難題ではあった。
どれだけ、攻撃を繰り出しても無傷で平然としている相手に対して、一瞬の隙を生じさせるのだ。
だが、それをやらなければ、負ける。
ならば、俺は…。