演技派カズト
三つ巴、期せずしてそうなった状況を、俺はどのように利用すべきなのか、考えていた。
まず、青岸だ。
周囲の子供達は正直、問題ではない。
6階でいつも、終業間際に消しまくってやっていたし、簡単に対処できるだろう。
だが、問題は青岸なのだ。
メアリとの戦いを覗かれていたせいで、青岸には俺の弱点を知られてしまった。
だから、こいつだけは確実に始末しておかないと、後々の憂いとなってしまう。
次に、メアリだ。
右手と右足を失っている状態であり、青岸と子供達に挑んでも敗北するのは確実であろう。
俺としては、メアリは自分の手で殺したかった。
しかし、事態が動き出してしまった以上、幼稚な執着は捨てなければならない。
とりあえず、先程の宣言によって、俺はメアリの味方ではないが、それぞれが青岸を殺したいという立場にはなった。
これで、仮にメアリを手助けするという状態になったとしても、結果的に青岸を叩くという事になってしまえば、問題はないというわけではある。
「よし、じゃあ、やるか…」
方針を固めてしまえば、もう、動くしかない。
すぐに動く事の出来ないメアリを一瞥し、俺が先に前へと出る。
「おい、青岸。俺の弱点が分かったとか言ってやがったが、それで勝った気になってるんじゃないだろうな?」
敢えての挑発だ。
俺の弱点は確かに致命的なのだが、それで、それだけで、俺に直接、向かってくるようなある種の大胆さを、青岸は持ち合わせていないという計算があった。
愚かではあるが、馬鹿になりきれないというのが、良くも悪くも青岸という奴の限界なのだ。
「調子に乗るなよ、カズト!お前の弱点はすでに分かっているんだからな」
子供達が次々と飛び掛かって来る。
まあ、想定内だ。
灰色を利用し、前後左右上下、四方八方から、群がって攻撃を繰り出してくる。
要するに、俺の弱点とは、『消失』が反応できない攻撃を仕掛けるという一点に尽きるのだ。
それをメアリはやってのけ、俺は痛みを負う事になった。
子供達はメアリ単体に比べ、遥かに劣る。
だが、幾らでも復活できるという特性上、消される事を恐れないのと、灰色から出現できるという移動の手間を省く事によって、波状攻撃を仕掛け、『消失』の綻びを狙うというのが青岸の考えなのだろう。
もう一工夫や二工夫が必要だとは思うが、悪い作戦ではない。
そして、俺も演技をする。
「クソ、クソがっ、群がりやがって、これじゃ、まともに動けない…。対処するので精一杯だぜ、クソがっ!」
追い込まれている振りをしてやる。
足を止め、苦々しい表情で青岸を睨む。
「無様ね、役立たずの情報屋。貴方はそこで、私が青岸を殺すのを、指をくわえて見ておきなさいな」
「クソッ、待ちやがれ、メアリ!」
過剰すぎるだろうか、演技が。
まあ、気付く事はないだろう。
青岸も、メアリも、自分が物語の主役であると思い込む悪癖を持ったタイプだろうから…。