冷静なるメアリ
冷静になろうとした。
そして、そうしたからこそ、カズトの特異性がようやく理解出来た気がする。
「…貴方の特異性は、触れた箇所を奪う、そういう事ね?」
カズトは否定も肯定もしない。
まあ、当たり前だ。
自分の特異性をあからさまにベラベラと喋る奴が、この世界でのうのうと生きていけるはずもない。
「敵が敵同士、勝手に潰し合ってくれるというのは、本来なら傍観しておいた方が得ではあるんだろうが、ちょっと退屈してるんだ。俺の相手をして、死んでくれないか?」
その声は、少し離れた場所から聞こえた。
そこに、建物を異変に陥れているのと酷似している灰色があった。
声は聞き間違えようもなく、青岸だ。
だが、断定できない以上、苛立たしく思って睨みつけてから叫ぶ。
「誰よ、出て来なさい!」
「招待されたなら、仕方が無いな」
最初から介入するつもりであっただろうに、それを私のせいにしようとするのが、青岸の小心で嫌らしい部分だ。
灰色の中から、青岸が姿を見せる。
周囲には数名の子供達がいた。
どの子供もどこかの部分が欠損していて、気持ち悪かった。
しかし、そんな事はどうでも良かった。
「青岸!」
「青岸…」
カズトの呟きと、私の叫びは、意味するところがまるで違っていた。
「メアリ、お前には感謝している。どうやっても、俺はカズトだけは手に余ると思っていたんだが、お前のお陰でこいつの弱点が見えた」
意味が分からなかった。
私がカズトの弱点を発見したとはとても思えないし、青岸の愚かさは相変わらずだ。
しかし、とにかくだ、青岸が出てきた以上、こちらからは何の恨みもないカズトの相手をしている場合ではなくなった。
「情報屋…」
「何だ?」
「一時、勝負はお預けよ。私はこの裏切り者を殺す為に、この建物に入ったの。だから、ちょっと我慢して待ってなさい」
正当な要求だった。
まあ、カズトも青岸と愚かさの面では競い合っているから、簡単には受け入れないだろう。
「悪いが、お断りだ。俺も弱点を知られちまった以上、青岸を殺さなくてはならない。お前みたいな不確かな奴に、こいつを譲って逃げられでもしたら大変だ。こいつは俺が殺す、それは決定事項だ」
「そう…、勝手になさいな。私は私で、勝手に青岸を殺す」
「お、おい、お前達は敵同士だろうが!俺を殺すって事で意見を合わせんなよ!」
どんな立場になろうと、状況がどうであろうと、本質は変わらない。
青岸は所詮、青岸であって、青岸以外ではない。
カズトもカズトであって、カズト以外ではない。
「じゃあ、競争だな。青岸を殺すのは俺だから、譲る気はない」
「望むところね。私が青岸を殺す、絶対に、何が何でも、譲らない」
「片手片足を失ったババァと、弱点を見せちまった雑魚キャラが…」
焦っている青岸、調子に乗っているカズト、その中で私だけが冷静だ。
勝利を夢見ている彼らと違い、私は現実的な勝利への道を突き進み始めていた…。