終焉の王子
その変化に、俺は戸惑う。
ジョージがジョージである事を止めた。
襟櫛が視線を向けてきて、彼もそれに気付いた事が分かる。
最強が舌打ちしていて、それも追い打ちを掛ける。
まあ、特異性を持つ者なら、ジョージの変化に気付かないなんて事は絶対にない。
アレは、そう、温存している力だ。
誰もが温存していて、ほとんどの誰もが使わない。
最強はどうだか知らないが、襟櫛と違って俺は元々、組織で働いていたわけで、初見というわけではない。
その時の経験を活かすならば、先手必勝という事になる。
温存している力を使えば、もぬけの殻となる。
つまり、何かを考えて行動しているわけではない。
最後の意思を忠実に実行しているだけだ。
だから、受け身でいてしまえば、それを実行されてしまい、そのまま終わらされてしまう。
しかし、こちらが動いてしまえば、最後の意志に違う条件が加わってしまい、歯車を狂わす事が出来るのだ。
「王子、逃げてくれ。もう、守ってやる余裕が無い」
襟櫛の言葉を聞き、それは確かに正しいとは思う。
だが、それを言ってすぐに動かなかった時点で、様子見をしようと待ち構えた時点で、アレへの対処としては間違いだ。
「仲間外れにするなよ。奴の決断、それは俺を含めての事だろ」
そうだ、逃げない事を明言した上で、やるべき事を即座に実行する。
先手必勝。
動かなければ、勝ちはない。
それを襟櫛に見せなくてはならない。
ここで、理屈を云々と披露して襟櫛を説得しようとしても、彼も容易に納得はしないだろうし、それが今のジョージにとってはすでに受け身でいたという扱いになってしまう。
無数の蛇をジョージに向かって動かす。
「馬鹿が」
最強の言葉が聞こえる。
でも、それは強者の論理だ。
自分や襟櫛のように特別でない者にとって、経験は全てに勝る。
あの時、ああしたからこそ、上手くいった。
これは、とても重要な事なのだ。
蛇が次々とジョージに噛み付いていき、その身を包んでいく。
毒があり、痛みがあり、本来は致命傷になるのだろうが、今のジョージにとってはそういう事が起こらない。
全身が蛇に噛み付かれ、全てがその斑に染まったかのような異様さになっても、ジョージは動かなかった。
やはり、そうだ。
先手を打つ事によって、ジョージは最後の意思を上手く実行できていない。
つまり、俺は、この場で最も弱いはずの俺が、勝利を得る。
「封殺した。さあ、止めを刺そうか…」
満を持して、獅子を登場させる。
獰猛さを露わにして、獅子はジョージに飛び掛かった。
その瞬間、耳を劈くような叫び声がジョージから発せられて全ての蛇が消し飛んで、まず一歩。
踏みしめた地面に凄まじい亀裂が走り、俺の視線は僅かな間だけ、そこに向かってしまう。
それと同時、距離はほぼ無かったかの如くに潰され、俺の顔面はジョージの右手に掴まれていた。
暗転。
終焉…。