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その建物を見て
「ここ、か…」
小さく呟き、俺は禍々しい雰囲気に満ちたその建物を見上げた。
正直、嫌な予感自体は筑殿駅に降り立った時点から感じてはいた。
だが、それにしても、これはあまりにも凄すぎる。
額に浮かんだ汗を拭う。
「冷汗かよ、この俺が…」
年が明けたばかりの1月初旬だ、汗をかく理由なんて他に思い付かない。
自然と足が止まり、身震いする。
「こんな所で足を止めてないで、中に入ろう」
不意に声を掛けられてギョッとしたが、視線を横に移すと、ついさっき会って別れたばかりの男が立っていた。