冷静に
魔王の記憶が甦り、激しい復讐心にメラメラと燃え上ったサリタンは、上半身を起こし両手を床について体を支えながら、脳裏で計画を練っていた。
なんといっても、まだ自分は赤子なのだ。
一人で立つこともままならない、体。
口惜しい。
しかし、プライドを捨てれば、こんな脆弱な人間の姿でも出来ることがあるはずだ。
さて、どうするか……。
小さい背中を向けて、一人悶々と考え込むサリタンのその姿を、じっと見つめる者がいた。
バッシュとリーサだ。
「あの子何してるのかしら?」
「うーん。そうだねぇ~。こっち向かないし、捜しもしないから、真剣に何か考えてるんだろうね?」
「え……でも、まだあの子生後6ヵ月なのに……」
「小さくでも、意思があるんだから、いいことじゃないかなぁ?」
「そういうものかしら……」
「たぶんね?」
なにやら考え耽っているような様子の妻に、バッシュは意識を己に向けさせるため、彼女のほっそりした指先を自分のかさついたそれと絡み合わせる。
誘導はうまくいって、リーサの意識はバッシュへ向かった。
じっと見つめていたバッシュと、リーサの視線が絡み合う。
「ねぇ奥さん。……お茶にしよ?」
リーサの白く柔らかい頬に、バッシュの手がそっと添えられ、親指が肌を撫でる。
「……はい」
頬をちょっと赤く染めて、無意識に敬語で返事したリーサに、バッシュは優しく微笑みながら、椅子に促すのだった。
「ただいまー」
年の割には元気な声が聞こえると同時に、扉が軋んだ音を立てて開かれる。
「あ、お義父様。おかえりなさい」
台所に立って食事の下ごしらえをしながら、リーサは声をかける。
「おお、ただいま」
「おかえり親父」
「ああ、ただいま」
椅子に座っているバッシュにも返事を返した後、ヒーローは寝室へ向かう。手に持っていた素振り用の竹刀を部屋の隅に立て掛けると、もう一度リビングへ戻り、バッシュの向かいに腰を掛けた。
「ふぅ」
「子供達は、どう?」
「うん、よくやってると思うよ。しかし子供は元気じゃな」
笑いながらそう答えるヒーロー。
にこやかにその様子を見つめながら、続けてバッシュは口を開いた。
「親父」
「うん?」
「後ろから熱烈な目線で見つめてる子がいるよ」
言われて振り返ると、いつからいたのか、サリタンが扉から体を半分覗かせる状態で見つめてきていた。
しかし、これは、なんというか。
「……サーちゃん機嫌悪いの?」
サリタンの視線は、睨み付けていると思われても仕方のない程、鋭いものだったのだ。
ヒーローの言葉を聞いて、息子はわかんないと答え、サリタンは我に返る。
素早く小さい体を扉の中に隠し、両手両膝を床について、うなだれた。
―――くっ、なんということだ! もっと冷静にならないと……!
右手で自分の頭をバシバシ叩くサリタン。
「サーちゃん?」
「おぎゃぁ!!」
突然背後から声が掛けられて驚愕のあまりカエルが踏みつぶされてしまったような声を上げてしまったサリタン。
その姿を見てやはり驚き無意識に体を引いてしまったヒーロー。
素っ頓狂な声を聞き慌ててサリタンの様子を見に行くリーサ。
三人の背後でバッシュは肩を震わせていた。
―――なに、これ。面白すぎ。 あー……楽しくなりそ~。
「ぶ。……くくっ」
抑えきれない笑い声が僅かに漏れるが、リーサとヒーローはサリタンを見ながら会話している為、誰も気づかなかった。




